見習い騎士、或いは半人前パイロットの飛行記録

架空戦記
長編小説二作目、遺作目の第二部を舞台にした創作物です。

プロローグ


rec01 はじまり

 故郷から遠く離れた極東の海、その海に浮かぶ鋼鉄の船の中で一人の女性が手紙を書いていた。宛先は、もちろん故郷にいる家族であった。
『 
 親愛なる、お父さん、お母さんへ
 私は、今極東のとある場所にいます。新聞などで知っているかもしれませんが、あまり詳しい場所は機密なので書けないそうです。
 幸いというか、偶然にもまだ実戦には参加していません。途中航行予定が狂ってしまって今日着きました。これから初出撃となるわけですが、上官にはこう言われました。”生きて帰るのがおまえ達ヒヨッコの任務だ”と。私・・・・・・いや僕は何があってもへこたれないから安心してください。って言っても無駄かもしれないけれど、僕は頑張ります。弱音は吐きません。あと、何ヶ月か遅れるかもしれませんがちゃんと給料の一部は仕送りしますから待っていてくださいね。
 だから、見守っていてください。それだけで十分ですから。
 
 シャルロッテより。

 追伸、帰るときは何かお土産も一緒に持っていくからあまり期待しないで待っていてください。
』
 彼女、シャルロッテ・バイルシュミットは、事実極東に来ていた。正確に言えば、セレバンテス極東派遣艦隊の一員として。
 なんでこんな場所に来ることになってしまったのだろう。きっかけは、ほんの軽い動機だった。敗戦後、国内は不安定で実家である農家も戦争の影響を受け、完全にも十分に元通りとはいかなかった。だから、実家を助けるためと思い、比較的安定した職業だと思われた軍隊に志願したのであった。
 すぐにあんな戦争が起こることはないだろうとたかを括っていた彼女は、まさか最前線に、しかもそれが極東の見知らぬ土地に行くことになろうとは夢にも思っていなかった。
 それに、実戦が近づいてくると、言いしれぬ不安がのし掛かってきたのであった。訓練でも人が死ぬことはあるが、戦争ともなれば食うか食われるかの世界だ。では、なぜ志願したのかと不思議がられるかもしれないが、当時はそこまで深くは考えていなかったのだ。
 ただ、一番興味のあった航空機、それに乗ってみたかった。それだけの理由でパイロットに志願し、何かの間違いで本当にパイロットになってしまったのだった。
 だが、今悔やんでも仕方がない。どんな仕事でも大変なことはあるのだ。そうシャルロッテは言い聞かせ、自分を奮い立たせた。
「簡単なことさ。危険な場所に足をつっこまなければいい。なぁに、楽勝じゃないか。何も不安がることはない」
 実際、パイロットとしての訓練中、何度も怖い思いはしてきた。良くパイロットは機体を飛び立たせることはできても着陸させることは難しいと言われるが、空母ともなればさらに難易度は上昇する。これも他人が聞いたら文句を言われてしまうかもしれないが、シャルロッテが海軍パイロットを目指したのもほんの出来心だったのである。
 最初にパイロットとして陸上で訓練していたとき、適正によって海軍か空軍かにわけるテストがあった。周囲の空軍に志願するだろうと言う大方の予想を裏切り、シャルロッテは無謀にも海軍パイロットへの適正テストを受けることにしたのである。
 何故かと言われれば言い訳に困るのであるが、例え適正がないと分かっていても難しいと言われる方を受けてみたい。それに、周囲に言われたから空軍を志願したと言われるのが絶対に許せなかった。
 そして、これまた大方の予想を裏切り、合格ラインぎりぎりで適正テストをパスしてしまったのであった。
 これに一番驚いたのは、他ならぬシャルロッテ自身であった。別に無理だからと手を抜くことはしないが、全力を出したところで到底テストをパスできるとは考えていなかったのである。
 しかし、パスしてしまったという事実は変えられない。適正を認められたシャルロッテは戦後解体され、供与された空母によって再建された機動部隊に海軍パイロットとして配属されたのだ。それからというもの、毎日が地獄のようであった。合格ラインぎりぎりと言うことは、要はパイロットの中で一番の落ちこぼれに等しい存在なのだから。そんな彼女は、上官であり教官でもある飛行隊長に日々叱咤激励されながら血の滲むような努力をしてきた。今でも海軍パイロットよりも空軍パイロットの方が向いていたと思っているが、任命された以上責任を果たす必要がある。
 それに、途中で投げ出したとあっては無理を通して説得してきた両親に申し訳が立たない。両親は、最後の最後まで軍人などと言う仕事に反対していたのであった。いくら事情があろうともそんな危険な場所に一人娘を出すわけにはいかないと。
 だが、それでも絶対大丈夫、心配はさせないと言って出てきたのである。今更弱音は吐けない。
 シャルロッテは、ペンを置き、手紙を封筒に仕舞って糊で封をした。手紙を書き、封をして出すと言うことが決心の意思表示であり、一種の儀式のようなものであった。
「もう後戻りはできない。後は進むだけ。でも後悔はしない。だって僕は決めたから」
 そんな決心も戦場では薄い鉄板の代わりにもならないことを彼女は知らなかったし、信じてもいなかったが、戦場は、それを見下ろすは神たちは冷酷であった。彼女が下界に留まっていられる存在なのか、そうでないのか、行くのは天国か地獄か、それを見定めるために手紙を持って部屋を去る彼女の背中に幾筋もの視線が投げかけられていた。。
『ようこそ、戦場へ』と。

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