戦乙女が舞い降りた地で、

架空戦記
長編小説一作目、架空の世界を舞台にした戦争物の作品です。

第7話 アルデンテ島攻防戦、アルデンテ島沖航空戦、後編


 時間は、第一遊撃隊の烈風隊が着艦を始める少し前に戻る。
第一機動艦隊に所属する空母の飛行甲板上には各種艦上機が所狭しと並んでいた。翔鶴と瑞鶴の烈風が敵攻撃隊を撃退した事は両機動艦隊の将兵にも当然伝えられており、彼らは安心して準備を進めていた。それでも、艦隊上空には烈風と零戦が敵機を警戒して飛びまわり、本艦隊から少しはなれた場所には対水上、対空レーダー搭載の警戒艦に乗り組んでいるレーダー員がレーダースコープを食い入るように見つめていた。
「善波大将、天城からも発艦準備完了との報告を受けました。全ての空母が準備完了になるのもまもなくでしょう」
「そうか」
 第一機動艦隊司令長官、善波大将は自分の席から艦橋内の作業を見守りながら返答した。
「敵は航空戦力の大半を喪失しています。例え、残った戦闘機を全機出してきたとしても、今のわれわれには些細な問題でしょう」
「いや、まだ油断してはならないよ。安心するのは全てが終わり基地に着いた時だ。我々の方が優勢なのは認めるが、戦いでは何が起きるかはわからん。そうやって鷹をくくっていて大敗した者はたくさんいるのだからな」
「…失礼しました」
 副官は、善波大将にたしなめられ、ぴんっと背筋を伸ばした。
「まぁ、余裕があることは良い事だ」
 善波大将は、微笑んで副官の方を向いた。
「は、はい」
 そこに、なにやら紙を持った下士官が現われた。
「善波大将、第一機動艦隊、全空母発艦準備完了しました」
「了解した。第一機動艦隊所属の航空隊に発艦を開始させるように命令せよ」
 その命令は、通信員を通して各空母へと伝えられた。
「後のことは、各航空隊の指揮官に任せる」
「彼ら、航空隊の戦果を期待していましょう」
 落ち着きを取り戻していた副官が、善波大将に向かって、自分に言い聞かせるように言った。
 第一機動艦隊の5隻の空母は、船首を風上に向け次々と艦上機を発艦させていった。翔鶴、瑞鶴と同じようにこれらの空母も手際よく発艦作業を進め、発艦した艦上機からそれぞれの艦隊の機種別に集合していく。
 同じころ、第二機動艦隊でも艦載機の発艦命令が出され、大攻撃隊が飛び立っていった。
そして、次第に陣形をつくり上げると、爆弾や魚雷をお腹に搭載している彗星や天山が機種ごとにある程度の高度差をとり、その少し上空を烈風が飛び、それぞれがそれぞれの位置関係を維持しながら敵艦隊のいる方向に向かって飛行していった。
第一、第二機動艦隊の攻撃隊は、二手に分かれてセレバンテス帝国と大セレネバ帝国の機動部隊の方向に向かった。

★
同じ頃、敵の機動部隊は、戦艦部隊とは少し離れており、セレバンテス帝国の機動部隊はその中でも一番前に出ていた。
「攻撃隊の収容急げ、損傷が激しい機体は廃棄してしまってかまわん」
 空母指揮官は、艦橋の中で飛行甲板の様子が見える位置に立って収容作業を続ける兵士たちに檄を飛ばしていた。
「収容作業はもうすぐ終わりますし、そうしたらすぐ後退しましょう」
 参謀は空母指揮官に言った。
「言われなくてもそうするよ。総員、上空警戒を厳にしろ。異常があったらすぐ知らせるように」
 収容し終わっていない航空機はほとんどなくなっていた。もう、両手で数えられるほどだ。それらが、一機、また一機と収容されていく。
 そして。
「全機、収容完了しました」
「よし、さっさと後退するぞ。全艦、対空警戒陣形」
 空母部隊は、空母を中心にした輪陣形を作り上げて艦の矛先を味方の戦艦部隊の方向へ向けた。
その時。
「レーダーに多数の反応!! 反応のある方向から見て敵機に間違いありません。これは…かなりの数です」
「全艦対空戦闘態勢に移行、上空を飛ぶ戦闘機隊は直ちに敵の迎撃に迎え!」
 空母指揮官の命令を受けて、上空を旋回していたRe-109Tはスロットルを最大に開けて高度を上げながら敵機の方向へ向かう。
「直掩機隊、全機発艦」
 艦長の命令により、飛行甲板上で待機していた戦闘機隊も次々と飛び立って迎撃に向かっていった。
また、旗艦の空母から護衛の駆逐艦までの機動部隊を構成する各艦は、自艦の搭載する対空砲を敵のいる方向へと一斉に回転させる。
「もう、引くことはできなくなった。後は一機でも多くの敵機を撃ち落すしかない」
 艦橋の中に直掩機から無線が入った。
「こちら直掩機部隊。これより敵機との交戦に入る。敵機の数は百機以上…」
 その報告が突如聞こえてきた機銃の発射音によって遮られた。
「…全機散開! 一発でも多く命中させるんだ!」
 普段なら部隊内用に変えてから命令する所を変えないで言っていた。それほど、切羽詰っていたのである。
「おい二番機、後ろに敵機がついてきてるぞ。急降下して巻くんだ」
パイロットは、操縦桿を倒して機体を海面方向に向けた。時速800q近い急降下速度で急速に海面に近づいてゆく。機体を緑色に染めた敵機も同じく急降下してついてくる。今度は機体を反転急上昇させる。
従来の主力艦上戦闘機の零戦ならば急降下機動にはついてこられなかった。しかし、この新型戦闘機は違った。こちらの機体が急制動で悲鳴を上げているというのに、相手は軽く身を翻してついてくる。
「くそっ、何で離れないんだ」
 敵機は、彼がどんな機動をしてもまるで見えない何かで繋がっているようについてきた。そして、何回目かの回避運動をしたとき彼は力尽きた。その頃には直掩隊は全て撃墜されていた。
「直掩隊、全機撃墜されました。敵攻撃隊なおも接近中」
「我が艦隊の防空圏内まであと10秒…7,6,5,4,3……」
 空母部隊指揮官は大きく息を吸い、そして・・・。
「対空射撃始め!!」
 旗艦をはじめ全ての艦艇の搭載された対空火器全てが一斉に火を噴いた。無数の火線が敵攻撃隊に向けられる。

 ★

対空砲火をものともせず突っ込んでくるのは天山攻撃機で編成された雷撃隊である。お腹に航空魚雷一発を搭載した天山は、二手に分かれて2隻の正規空母に接近する。
 そのうちの一手、18機の天山攻撃機がヘルマンレーテに接近していく。
「予想していたのよりは対空射撃が少ないな。全機、投下距離に達するまでは逃げるんじゃないぞ」
途中、何機かが対空砲火の網に絡めとられたがほぼ全ての天山が投下位置に着いた。
「ようし、魚雷投下用意」
 投下スイッチに指をかける。
「…魚雷投下!」
 お腹に搭載されていた魚雷が海中へと投下される。天山は魚雷を投下して身軽になると旋回して空母から離れる。
 ヘルマンレーテの両舷に魚雷がスクリュー音を鳴らしながら接近する。
「良いぞ、そのまま敵空母に魚雷をお見舞いしてやれ」
 天山のパイロットは、魚雷が空母に向けて進んでいくのを離脱しながら見送る。
 ヘルマンレーテの回避運動虚しく、放たれた魚雷の内8発が命中した。
「よし、これで1つ」
 ヘルマンレーテは、被雷箇所から大量の海水が流入した。艦載機のほとんどを喪失したし爆弾や魚雷も少なくなっていたため、それらに引火誘爆して轟沈という事はなかったが8発も魚雷を受けて浮かんでいられるはずもなかった。予定ではこの後急降下爆撃機が攻撃をする手はずであったが、この惨状を見ては必要なしと判断されて違う艦に振り向けられる事になった。
同型艦フォーラトルも魚雷4本が命中し彗星艦上爆撃機からも7発の爆弾を受け大破炎上、沈没は必至であった。
 小型空母のリマー、キメルニアに目標を定めていったん高度を上げていた彗星は、指揮官の「行くぞ」という言葉をきっかけに各機機種を下げ、急降下をはじめる。
 リマー級の2隻は、小型な艦を器用にくねらせながら攻撃をかわす。
「くっ…、ちょこまかと動きやがって」
 爆撃を終えて急上昇に転じた彗星のパイロットは、急降下体勢では急には動けず爆撃に失敗してしまった事に悔しがった。
「そちらが逃した獲物は、必ず私たちがやる」
 後続の彗星から無線が入った。
「頼むぞ!」
 上昇をし終わってさっきの彗星が爆撃をするのを眺めた。はるか下にいる彗星は小さくて見えなかったが、それよりはまだ大きい小型空母から火があがるのがはっきり見えた。
「爆撃成功、これでやつも足を止めるだろうよ」
 上空から眺めていた彗星のパイロットは、その報告に思わずガッツポーズをしてしまった。少し離れた所にいた同型艦と思われる空母にも爆弾が命中したようで、その空母からも火が上がった。
 彗星や天山はもちろん雷爆撃を行っていたが、烈風もこれ以上敵機の出現がないと判断すると艦艇に機銃掃射を加えるべく高度を下げる。
「対空射撃は一生懸命しているようだが、いかんせん状況が悪かったな」
 その烈風が機銃の届く高度に降りていく途中ぱらぱらと銃弾や砲弾が飛んできたが、それはもう最後の悪あがきと言ってよかった。まだ、攻撃を開始してからあまりたっていなかったのにまともに航行できそうな艦はほとんどの残っていなかったからだ。空母が四隻いるが艦載機のほとんど失ったそれは、大きな金属の箱に等しかった。
「…それにしても、これは全滅に等しいな。こちらはどれくらいやられたかな」
 後半は遼機のパイロットに言った言葉だった。
「少なくとも10機は落されたようです」
「そうか」
 そこで、目標の駆逐艦が近くなったので彼は前に集中する。前方ガラスに映る駆逐艦がだんだん大きくなっていく。そして、所々火を上げている駆逐艦に向かって機銃の引き金を引いた。翼に搭載された20o機関銃4門が火を吹いて駆逐艦へ銃弾が飛んでいく。コックピットからは甲板上に上がってこちらに機銃を撃っている兵士や火を消そうとしている兵士が見えた。それを烈風から発射された機銃弾は容赦なく襲う。赤い液体が飛び散り、紙を引きちぎるように兵士の体の一部分が千切れ飛ぶ。なんと言っているのか分からないような悲鳴が聞こえる。それは、烈風が高速で通り過ぎる一瞬見えた映像だったが、普通の一般人ならトラウマになるほどのものだった。彼とて最初は怖いと思っていた。今だって全く怖いわけではなかったが、戦いというものは怖いものでいつしか慣れてきてしまったのである。
「もう一度高度を上げて違う艦を攻撃するぞ」
 彼は、了解という応答を聞きながら機首を上げて上昇を始めた。

★

 所変わって、大セレネバ帝国の機動部隊を目標に進行した攻撃隊もすでに攻撃を開始していた。
 大セレネバ帝国は、直掩用に残していた戦闘機と帰還した攻撃隊の戦闘機を加えた60機を迎撃に出したが、迎撃機を上回る烈風に攻撃され、戦闘機隊を一時的に足止めした以外は、攻撃機と雷撃機隊をそのまま素通りさせてしまったのである。
しかし、対空射撃がセレバンテス帝国とは違っていた。巧みな操鑑で魚雷は避けられるし、飛行甲板上を厚い装甲で覆っている装甲空母は、爆弾が何発も命中して火災を起こしていたが、まだ足を止めずに回避運動を懸命に続けていた。烈風も何回にもわたって敵機銃、機関砲に向けて20o機関銃を浴びせていたのに、銃弾の数はそれほど減ったようには思えなかった。
「手強いな・・・」
 大型の艦で沈めたのはまだ一隻もなく、攻撃隊の隊長は不満を口にした。
 隊長がそう言ったところで、空母の中で一番重傷を負っていた軽空母のダニエアが一際大きな爆発音を上げた。その空母の近くを飛んでいた見方機は、大爆発を起こして急速に海へと沈んでいくダニエアを確認した。
「やっと一隻か」
 その味方機から敵空母撃沈の報告を受け取っても隊長の不満は晴れなかった。
「し・・・しかし、それでも巡洋艦3隻は大破していますし、駆逐艦は確認できているだけで7隻は撃沈しています」
 隊長の独り言を聞いていた副隊長から、隊長を少しでも元気付けようとしているのだろう、今現在の現状報告をした。
 しかし、その言葉もあまり役に立っているようではなかったようだ。
「そんな事は随時あった報告で把握している、その戦果よりもこれだけの大部隊でまだ一隻の軽空母しか撃沈できていない事が不満なんだ」
 隊長は言い返す。
 まだ爆撃を行っていなかった彗星が、正規空母に向かって急降下し、そして上昇に転じたのが見えた。だが、その空母の飛行甲板に爆発が起こっていない以上命中はしなかったようだ。
「まだ雷爆撃を行っていないのは彗星艦爆一個小隊だけです。後は機銃掃射をしてダメージを与える他ありませんね」
「そうだな・・・」

★

「第十区画より火災発生」
「敵機の爆撃により、速力5ノット低下」
「第十二区画にはまだ避難していない兵士がいます。もう一回開けてください」
「だめだ、あそこは浸水してきた水の圧力で開閉ができない状況だ。それよりも、隣の区画へ行って浸水を止めろ!」
 大セレネバ帝国の機動部隊の旗艦イオン・アラネスの艦橋は、艦内各所から来る報告と要請を処理するので大変だった。そして、現場の兵士によって被害を最小限に抑えていたのだ。
「どうした、どんどん浸水区画が増えているぞ。これ以上の浸水をなんとしても食い止めるんだ」
 フォレスタル大将は、言わなくても必死にやっているとは分かりながらも言わずにいられなかった。
「敵機の雷爆撃はどうだ?」
 フォレスタル大将は、対空監視をしている兵士に聞いた。
「爆撃機や攻撃による雷爆撃は終わったようで、戦闘機による機銃掃射が…」
「大将危ない!」
 兵士が報告している途中、隣にいたほかの兵士が飛び掛ってきた。一瞬フォレスタル大将は、自分の身に何が起こったのかわからなかった。分かったのは自分が床に倒れふしているということ。そして、ガラス窓が粉々に飛び散っているという事。ここまで見て、初めて敵戦闘機の機銃掃射を受けたことが分かった。
 フォレスタル大将は自分を押し倒した兵士に声をかけた。
「ありがとう。もう大丈夫だ。だからどいてくれないか?」
 しかし、その兵士には動こうとしなかった。
「君がどかないと私が動けない」
 そう言って、背中に手を回す。すると、何かで背中が濡れていた。フォレスタル大将は、自分の力で兵士の体をどけて立ち上がると案の定兵士の背中は血でぬれていた。さっきの攻撃で被害を受けたのだろう。しかし、幸い傷は小さいようで出血もたいした量ではなかった。
「至急、医務室に連れて行け。早く処置すれば助かる」
 フォレスタル大将は、近くにいた兵士に言った。その兵士は一瞬その場に突っ立っていたが、すぐに近くにいた人と協力して怪我をした兵士を連れていった。
「あと少し、あと少し立てば敵も後退するだろう。それまではなんとしても耐えろよ」
 フォレスタル大将が窓から周りを見渡すと、知らぬ間に艦が明らかに減っていた。
「艦隊の中での被害を知らせよ」
「はっ、重巡洋艦、軽巡洋艦各一隻が沈没、2隻が大破。駆逐艦で浮かんでいるのは14隻です」
「離れている艦はもっと近づくように命じろ」
「了解」
 その命令はすぐさま他の艦へと伝えられた。機銃掃射の中近づいていったが、フォレスタル大将が見ている中一隻の駆逐艦が大爆発を起こした。
「艦上で爆発が起こったようなので、搭載されていた魚雷が誘爆したのでしょう」
 双眼鏡でその駆逐艦をたまたま見ていた将官が言った。
「これで駆逐艦は13か」
 その後、旗艦に何回も機銃掃射がきた。反撃して何機も落したが、こちらも多大な被害を受けた。その何回目かの機銃掃射で、甲板に当たって跳ね返ってきた銃弾がフォレスタル大将の肩をえぐる。
「大将、今医師を呼んできます」
 兵士が艦橋から出ようとする。
「いや、呼ばなくていい。これくらい大丈夫だ。それよりも、敵はまだ下がらないか?」
「はい。ですが、もうすぐでしょう」
 側にいた士官が答える。

 さらに十分ほど経つと、機銃掃射を加えていた戦闘機隊もやっと後退していった。
艦橋の中はガラスの破片が散らばっていたり、怪我をした兵士の血が飛び散っていたり、すごい有様だった。
「やっと後退しましたね」
「そうだな」
 敵機が来てから後退するまでは30分もなかったが、フォレスタル大将にはその何十倍もの時間に感じた。
残った艦は空母を中心に円の形に陣形を組んでいたが、周りを取り囲んでいる補助艦艇はさらに少なくなっていた。
大破した巡洋艦のうち、一隻の軽巡洋艦は浸水が止まらず、艦尾の方から少しずつ沈んでいった。もちろん、艦内の将兵は既存の排水機能だけでは間に合わないことが分かると、バケツなど水を汲めるものは何でも使って少しでも水を排水しようと必死だった。
しかし、排水した量に比べて艦内に浸水してくる量のほうが何倍も多く、必死の排水作業もむなしく、ついに総員退艦命令が出された。
軽巡洋艦からは兵士の乗った短艇が降ろされ、舷側には駆逐艦が接舷し、乗組員が乗り移り始めた。その間にも浸水は酷くなり、救命胴衣を身に付けた兵士も身に付けられていないかった兵士も我先にと海へ飛び込んでいった。
軽巡洋艦の乗員を引き受けた駆逐艦は、移乗してきた将兵たちで溢れ返っていた。全身傷だらけで、すでに虫の息の者、飛び移った際に足を骨折した者、肉体的には軽度の傷だが、精神に大きく傷を負ってしまっている者などいろいろな者がいた。
これで、残った巡洋艦は二隻になった。
駆逐艦は、まだ十隻以上残ってはいたが、三分の一はやっと浮いているような艦で艦隊についていくので精一杯だった。

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