戦乙女が舞い降りた地で、

架空戦記
長編小説一作目、架空の世界を舞台にした戦争物の作品です。

第7話 アルデンテ島攻防戦、アルデンテ島沖航空戦、前編


 11月20日、アルデンテ島北方海域。
空には雲ひとつ見当らなく、その青い空からは太陽が照りつけていて、海は太陽光を反射し輝いていた。
その空を、一機のヘリコプターが飛行していた。ヘリコプターの側面には、霧城連邦の所属を表す大きな国旗が描かれている。
 ヘリコプターの機内には、機長と副操縦士、そしてレーダー員の三人が乗り組んでいる。皆一様に緊張した面持ちだった。それもそのはず、彼らはこれからの作戦において重要な位置を占めているのだから。
 中でも1番緊張した顔で任務をこなしているのがレーダー員だった。彼は、各種レーダーから来るデーターを分析し、目当ての物の反応が現れるのを今か今かと待っていた。
 この状況がいつまで続くのかと思い始めたとき、レーダーに反応が現れた。
「これは・・・・」
 レーダー員は、ついに目当てのものを発見したのだった。
「どうした?」
 機長は、レーダー員が何を発見したのかは薄々気づいていたが、それを確かめるように問いかけた。
「敵です。敵艦隊です。対水上レーダーに少なくとも40隻以上の反応が出ています。内、大型艦艇8以上」
 機長は、すぐさま母艦へと通信を入れた。

★

 同時刻、第一遊撃隊所属空母翔鶴。
 敵艦隊発見の報告は、艦内をにわかに騒がせていた。艦上戦闘機のパイロットには即時出撃待機の命令がかかり、彼らは飛行服を着用して艦上の待機場所に集まっている。
飛行甲板上には、エレベーターによって格納庫から上げられた艦上戦闘機が続々と並べられていった。その飛行甲板上を見ると艦上爆撃機や艦上攻撃機の姿が全く見当たらない。なぜ艦上戦闘機しか並んでいないのかと言うと、それは第一遊撃隊の任務の内容にあった。
今回の第一遊撃隊の任務は、敵空母から発艦する攻撃隊を迎撃する事にあった。翔鶴、瑞鶴の2隻の空母は、この任務のために艦上爆撃機と艦上攻撃機のほとんどを降ろして、代わりに艦上戦闘機を補充していた。
「すみれ大尉、第113戦闘機中隊の全メンバーが集合しました」
 すみれ大尉の副官を始め、10人の仲間が彼女の前に並んでいた。
彼女達は、開戦から一ヶ月余り経ち、初めて本格的な航空戦を経験する事になる。これまでの戦いでも敵戦闘機と交戦した事は何度かあったが、相手は大抵旧式機で少数の偵察隊規模のものでしかなかった。
それが、今回は敵空母部隊から発艦する大攻撃隊が相手である。それも、多数の新型機を含むものである。この事から、今までで一番の激戦になる事は容易に予想がつく。それを仲間たちに再認識させるべく、すみれ大尉は話を始めた。
「発見された敵艦隊には、少なくとも四隻以上の大型空母が含まれているそうよ。そこから発艦してくる攻撃隊は、戦闘機だけでも50機をゆうに超える量だと言えるわ。最初に来るだろう第一波だけで。それに対してこちらの迎撃機は敵戦闘機よりも少ないかもしれない。だから、今まで以上に各自が連携した攻撃が必要になるわ。ようは、どれだけ効率的に敵数を減らせるかって事」
 そこまで話したところで、レイカ少尉が控えめに手を挙げた。
 すみれ大尉は、ゆっくりとした口調で聞いた。
「レイカ、なにかしら?」
 レイカ少尉は、はいと言って手を下げると不安気味に言う。
「え〜と、こんな事は聞いちゃいけないのかもしれないですけれど、もし私達の迎撃網を潜り抜けた敵航空機がいたらどうするんですか?」
 すみれ大尉は、少し安心した表情になると諭すように言った。
「ああ、その場合の事を話していなかったわね。私達の戦闘機の迎撃網の後方に、第二次迎撃網として戦艦伊瀬を配置しているわ。だから、私達は出来るだけ敵数を減らすと言う事を考えれば良いの。後方に抜けてしまった敵航空機は、あまり深追いせずに第二次迎撃網の彼らに任せれば良い。まあ、抜けていってしまう敵航空機を出来るだけ少なくする事はもちろんだけどね。これで良いかしら?」
「はい、分かりました。交戦になった時には、たとえ一機であっても後ろに通さないように頑張ります」
 レイカ少尉は、すみれ大尉の言葉によって元気が出てきたようだ。
「そう言う事だから、中隊で連携して敵を後ろに通さないように頑張りましょう」
 すみれ大尉のその言葉に、仲間達は元気に敬礼を返した。すみれ大尉も不安が全然無いわけではなかったが、隊長が不安を口にしては仲間に示しが付かない。自分は仲間達の命でさえこの手に握っているのだから、一番頑張らなくてはいけないのは他ならぬすみれ大尉自身なのだ。彼女は、いつも戦闘前に自分に言い聞かせていた。
 彼女達が敬礼のために挙げた手を下げようとした時、規則正しい間隔で吹かれたラッパの音が聞こえてきた。ついにその時が来た。敵攻撃隊発見の合図である。翔鶴の艦橋マストには、発艦はじめを意味する信号旗があげられた。
 それと共に、翔鶴は増速して風上に大きく舵を切る。戦闘機が発艦するための風力を得るためだ。戦闘機も、折り曲げられていた翼を乗員によって元の真っ直ぐな翼に戻され、スイッチを入れられた発動機が唸りを上げ始めた。
この作業をする間に、パイロット達はそれぞれの乗機に走って行きコックピットに乗り込んでいった。
すみれ大尉も、仲間達と共に同じようにコックピットへ急いだ。すみれ大尉は愛機の烈風に乗ると、計器類のチェックを始める。これはどんなに急いでいても欠かすことはできない。普通に飛行している時ならまだ良いかもしれないが、敵機と空中戦をしている最中に機械的故障を起こしてしまう事は、そのまま死へと直結しているのだから。
しかし、整備員が一日も欠かさず整備を行ってくれるおかげで、安心した気持ちでチェックを終える事ができた。
後は発艦の順番が来るのを待つだけだ。すみれ大尉は、同じく烈風に乗って順番を待っている仲間達と声を掛け合った。
数分後ついにすみれ大尉の番が回ってきた。すみれ大尉は、エンジンのスロットルを最大に上げる。急な機体の加速によって座席に押し付けられるような格好になる。そして、いつもどおりの距離を滑走した後、操縦桿を倒してふわっと浮き上がるように空へと飛び上がった。すみれ大尉は、機体の高度を少し上げると後続の僚機を待つために旋回を始めた。
旋回して機体を少し横に倒す時、すみれ大尉がコックピットから下を見ると、つい先ほどまでいた翔鶴の飛行甲板が小さく見えていて、さらに小さな戦闘機が発艦していた。その小さな黒い点にしか見えない戦闘機が、すみれ大尉を目指して上昇してきた。その戦闘機は高度を上げるにつれ明確な形を持ち始め、すみれ大尉の指揮する第113戦闘機中隊の烈風になった。中でも1番最後に発艦した機体、佐渡中尉の副長機がすみれ大尉の隣にぴったり付いた。
「中隊全機、発艦完了しました。残りの戦闘機隊もすぐ発艦してくるでしょう」
佐渡中尉のほかの僚機も、二機ごとにエレメントを組みさらにエレメント二組の編隊をつくり、それが集まって1つの中隊を形成していた。
残りの機体が発艦し終わったのは、その後すぐだった。これにより、翔鶴、瑞鶴から烈風、64機が敵迎撃に発艦したのだった。
 そして、陣形を整えた迎撃隊は敵のいる方向へ向けて飛んでいった。



 すみれ大尉は、敵を発見しようとコックピットから目を凝らしていた。大体の予想進路は分かるが、道路を走っている車を発見するのと違って空は三次元、方角が合っていても高度が会わなくてすれ違ってしまうこともありうる。
しかし、今日は幸いにも快晴だった。これなら敵を見逃す危険は少なそうだ。そうすみれ大尉は思った。
すみれ大尉は、後ろも確認する。他の遼機も綺麗な編隊を組んで飛んで来ていた。今度は隣を見る。佐渡中尉が、やはり綺麗に真横を飛んでいた。少しの間佐渡中尉を見ていると、彼女はこちらの視線に気づいたようですみれ大尉の方に顔を向けた。そして、親指だけを残して手を握り、グッドのジェスチャーをした。それは、すみれ大尉を安心させるためにやったように思えた。そうすみれ大尉が思うと、彼女が頷き返す。まるで、本当に分かっているようだ。すみれ大尉も同じジェスチャーを返した。
 そして、また前に視線を向ける。そろそろ敵攻撃隊と接触しても良いころだ。しかし、いまだに敵の機影は1つも見えていなかった。まさか、本当に見過ごしてしまったのだろうか。すみれ大尉がそう思った時、1番左端を飛んでいる烈風が機体を左右に振った。
 すみれ大尉は、その機体の側を注意深く見る。すると、少し遠くだが黒い点が何十個も見えた。この方角から来る航空機ならば敵に間違いないだろう。すみれ大尉は、敵を見過ごしていなかった事が分かって安心すると、中隊の遼機に機体を振って合図をすると急上昇した。遼機は、編隊をほとんど乱さずにすみれ大尉の後をついてきた。
 そして、太陽を背にして敵に迫る。敵は、まだこちらに気づいていないようだ。新米のパイロットなら、今すぐにでも上空から襲い掛かりたい気持ちに駆られるかもしれないが、すみれ大尉たちは敵攻撃隊の真ん中あたりの上空に来るのをじっと待つ。
「3,2,1、全機突入!」
総指揮官の無線を合図に、他の中隊が敵に突入していく。
「小隊ずつで連携して敵の迎撃に当たれ。敵戦闘機を最優先で攻撃するように」
第113戦闘機中隊には、最優先で戦闘機を攻撃せよという命令が来ていた。これは、中隊ごとに攻撃する航空機の種類を分けることで、より効率的に敵機を撃墜しようという第一遊撃隊司令部の判断であった。
 そして、中隊は六つに分かれる。
彼女よりも先に突入した戦闘機隊によって、空中戦がもう始まっていた。
すみれ大尉は、副長の佐渡中尉と小隊を形成して対航空機戦に入った。
 

 すみれ大尉は、降下しながら1機の戦闘機に狙いを定める。その戦闘機は、他の戦闘機隊の攻撃を受けて上昇してきたところだった。すれ違う形になったすみれ大尉は、迷わずその敵機に銃弾を浴びせる。烈風の20o機関砲が火を吹き、敵機の正面に何箇所も穴をかける。そのうち何発かがコックピットにも命中して、パイロットを絶命させた。操縦者を失った敵機は、飛んできた軌道を大きく外れてすみれ大尉の隣を通り過ぎ、機体を急角度で海面の方向へ下げると墜落していった。
 敵機を撃墜すると、降下した勢いで今度は上昇に転じた。すると、上昇する機体の背面方向やや上から、大セレネバ帝国の12.7mm機銃を6基搭載した最新鋭戦闘機、F-3C艦上戦闘機が迫ってきた。すみれ大尉は、すぐには回避運動をしようとはせずにF-3Cが近づいてくるのを待つ。そして、F-3C艦上戦闘機のパイロットがトリガーを引き絞ろうかと思った瞬間、すみれ大尉は機体を左に向けた。
F-3C艦上戦闘機のパイロットは、急に旋回した敵機を見て自分も機体を急旋回させる。しかし、追いつけない。それに、急旋回したために速度が著しく落ちてしまった。
 すみれ大尉の少し上を飛んでいた佐渡中尉は、速度が落ちているF-3C艦上戦闘機に20o機関砲をお見舞いする。銃撃は、寸分違わずF-3C艦上戦闘機を捉えた。銃弾は、右の翼を穴だらけにして火を噴かせて爆散させた。そして、方翼を失ったF-3C艦上戦闘機は錐もみ状態になりながら墜落して海面に1つの水柱を上げた。
すみれ大尉は、ある程度上昇すると機体を水平に戻して佐渡中尉と合流する。
 すみれ大尉が右の方をちらっと見ると、三機の攻撃機が同じ三機の護衛戦闘機と一緒に後方にいる艦隊に向おうとしていた。
もう少し注意深く見てみる。すると、ほぼ零戦と同武装のレギーナRe-109T艦上戦闘機が三機。我が天山艦上攻撃機と、九七艦攻の中間に位置するような性能のヴァイスメッサーWe-160艦上攻撃機三機の、計六機である事が分かった。
「佐渡中尉、今右前方に居る戦闘機三機と攻撃機三機の編隊分かる?」
 すみれ大尉は、その方向を指さしながら無線で言った。
「はい、見えています」
「今度はあれを狙うわよ」
「了解!」
 2機の烈風は、旋回してその編隊へ向かう。
すみれ大尉と佐渡中尉の小隊が迫ってきている事を知った敵戦闘機は、攻撃機を降下させると、二機の戦闘機をそれぞれ左右に旋回させてすみれ大尉たちを挟み撃ちにしようとする。
もちろん、艦攻は烈風の敵ではないが、Re-109T艦上戦闘機は普通の烈風パイロットならば脅威である。
 しかし、今回は相手が悪すぎた。彼女達に勝とうとするならば、少なくともエースと言われるくらいの技量を持つパイロットと、最新鋭艦上戦闘機くらいなければ勝てないだろう。
 このRe-109T艦上戦闘機は、最新鋭機であるという点では条件に当てはまっていたが、パイロットはお世辞にもエースとはいえない新米パイロットだった。
話を戻そう。この敵機の行動を見たすみれ大尉は、佐渡中尉を攻撃機の方向へ向かわせた。佐渡中尉は、攻撃隊のもとへ高度を下げながら直行する。敵機は、一機をすみれ大尉のもとに行かせると、残り二機で佐渡中尉を撃墜しようと迫ってきた。佐渡中尉は、少しも動じずに敵機の接近を待つ。すみれ大尉は、機体を捩って迎撃に来た敵戦闘機からの銃撃を交わすと、スロットルを一気に上げて佐渡中尉の元に行く。ここに来て、すみれ大尉に銃撃を加えたパイロットは、初めてすみれ大尉の思惑を知った。しかし、そのとき気づいたのではすでに遅すぎた。やはり、技量の差は戦闘機の性能で補いきれるものではなかったのである。
 佐渡中尉を挟み撃ちにしようとした二機のRe-109T艦上戦闘機のパイロットは、2基の20ミリ機関砲の照準を合わせ、機関砲の発射スイッチに指をかけた。そして、両側から佐渡中尉に銃弾を浴びせる。佐渡中尉は、その銃弾を浴びた。いや、浴びたかに見えたが、実際は命中してはいなかった。佐渡中尉は、銃弾を浴びる直前に機体を急降下させて2機の目の前から消えていた。2機のRe-109T艦上戦闘機のパイロットは、突然消えた烈風に驚き一瞬注意が散漫になってしまった。その間に、二機のRe-109T艦上戦闘機は、味方のRe-109T艦上戦闘機と目と鼻の先まで接近してしまい、相手を避けられなくなってしまった。2機のRe-109T艦上戦闘機のパイロットはとっさに機体を急旋回させたが、両Re-109T艦上戦闘機は、味方同士で激突してしまった。片方の一機は何とか飛べる状態を保っていたが、もう一機はその後すぐ墜落していった。
 しかし、もう一機もそれほど時間を置かずに同じ運命をたどる事になった。すみれ大尉がよたよた飛んでいるそのRe-109T艦上戦闘機に狙いを定め、20ミリ機関砲の火を噴かせたのだ。その銃弾は、Re-109Tに命中し空中分解させた。
急降下してRe-109T艦上戦闘機の前から姿を消した佐渡中尉はというと、もう一度高度を上げてから降下に転じ、すみれ大尉の後ろについてきているRe-109T艦上戦闘機にすれ違いざまに銃撃を浴びせた。そのRe-109T艦上戦闘機は、避けるよりも前に銃弾を浴び、機体の各所から火を噴きながら墜落していった。
「中隊長、これで5機目です」
「そうね。でも、まだまだ戦いはこれからよ。まだこんなに敵機がいるんだから」
 彼女ら迎撃隊は、この短時間に何十機もの敵機を撃墜していた。しかし、空を逃げ惑う攻撃機や爆撃機、それを守ろうと必死な護衛戦闘機はそれほど減ったようには見えなかった。
それでも、敵機の数は確実に減少していた。
 すみれ大尉は、他の中隊がWe-160艦上攻撃機を撃墜するのを見届けると、敵味方の航空機が入り乱れて飛ぶその中に、佐渡中尉と共に飛び込んでいった。

★

 レーダー員は、レーダースコープに視線を集中していた。
レーダースコープに映る敵機の光点は、最初はばらばらにこちらへ向っていたが、徐々に一塊になって伊瀬の方向へ向かってきた。
 その敵機が来た方向には、航空機が密集している空域があった。そこが、迎撃隊が敵と交戦している空域に違いない。
「敵攻撃隊の一部、第一迎撃網を突破してこちらへ向ってきます」
 第二迎撃網の役割を果たす戦艦伊瀬の艦橋に、レーダー員の声が響き渡った。戦艦伊瀬らは、敵機が来るであろう方角に右舷を向けて直線に並んでいた。戦艦伊瀬らにとっては、敵との初めての交戦である。これまで、索敵任務と空母部隊の護衛任務を遂行していたが、一回も敵と対峙する事は無かった。そういう事情もあって艦内は緊張感に満ちていた。
「敵の正確な数は?」
艦長の羅山大佐が、そのレーダー員にすぐさま問い返す。
レーダー員は、光点の数や強さから敵の機種と数を推定する。
「敵機は、小型の艦載機で、数は20機から30機程度だと思われます」
そのレーダー員は、真っ直ぐ羅山大佐を見たまま言った。
「と、言うような状況のようです。リオン中将」
 羅山大佐は、指揮官席に座っているリオン中将に振り返り、ゆっくりと言った。
「了解した。敵機が所定の距離に入り次第、射撃開始せよ」
 リオン中将は、後半を少し話す速さを上げて言った。
 それに合わせて、各艦の対空兵器が低い唸り声のような音を立てながら敵機の方向へ指向する。
「敵機、射程圏内まで10秒前、8,7,6,5,4,3,2,1・・・」
「射撃開始!」
レーダー員が、ゼロと言うのと同時に羅山大佐が射撃開始を命令した。
 まず、始めに射撃開始をしたのは、伊瀬に搭載された計八基のうち右舷にある四基のビーム砲だった。
 ビーム砲から放たれたビームは、敵機の先頭の航空機に向けて進んでいく。
「これより前方の戦艦に攻撃を加える。全機突げ・・」
部下が無線で隊長機から命令に耳を傾けていた時、突然無線が途切れた。そして、彼よりも少し前方を飛んでいた隊長機に方向を見ると、先ほどまで何事も無く飛んでいた隊長機が火達磨になっていた。
 彼にとってみれば、前を飛んでいた隊長機が攻撃を受けたことに気づかず、突然見えざる敵に攻撃を受けたように見えただろう。
 撃墜された航空機のパイロットには、さらに驚くべき事だったに違いない。
 発見した敵艦に攻撃を加ようと命令を下していた時に、突然に自分の乗っている航空機が火を噴いたのだから。パイロットは、自分の機体に何が起こったのか気づく前に海面に墜落してしまった。
 さらに何機か撃墜されて航空機隊は各自に散開を始めた。
 しかし、散開を始めたとほぼ同時に伊瀬ら6隻から、実弾とビームによる弾幕射撃が始まった。
 弾幕射撃と言っても、レーダーと同調して極めて高い命中率を誇り、これまでに経験した対空砲火とは比べ物にならないものだった。これは、防空網というよりは壁に近い。その壁が、航空隊の前に立ちはだかった。
 速度や運動性能が低く、爆弾や魚雷を背負った攻撃機や爆撃機は、まるで止まった的のように撃ち落された。なんとか攻撃を潜り抜けられたものも、全くの見当違いの場所に爆弾や魚雷を投下して対空砲火の射程外に逃げようと必死だった。
戦闘機でさえ、機体全体に数え切れないほどの風穴を空けられ四散し、その軽快さを生かして対空砲火から逃げ回るしかなかった。

★

 すみれ大尉が高度を取って周りを見渡してみると、空を飛ぶ航空機の数は確実に減っていた。先ほどまでは、空戦に集中していてそこまで気が回らなかったのだ。
 すみれ大尉は、部下に無線を入れた。
「各小隊無事か?」
 彼女の通信に、各小隊から次々と連絡がいる。その中でもレイカ少尉からの通信が1番大きな声だった。大きな声と言うよりは、少々うるさいと言ったほうが良いかもしれない。
「これからは敵攻撃隊の掃討に入る。戦闘機以外の機種に対しての攻撃も許可する」
「了解!」
 ほぼ同時に部下から同じ言葉が入ってくる。
 彼女は部下からの応答を聞き終わると、空を逃げ回っている二機の攻撃機に目をつける。そして、佐渡中尉に無線で合図をすると機体を捻って降下していった。佐渡中尉機は中隊長機を援護するため一定の高度差を持って追従していく。
 上空から一気に迫ってくる烈風に気づいたその攻撃機は、大セレネバ帝国のWe-160艦上攻撃機であった。We-160は、後部にある7.92o旋回機銃を連射しながら鈍重な機体をそれぞれ左右に旋回させた。
 すみれ大尉は、そのうち右に旋回したWe-160に狙いを定め、20o機関砲を撃つ。攻撃はWe-160艦上攻撃機の左翼の付け根に命中し、その翼を胴体から切り離す。方翼を失ったWe-160艦上攻撃機は、右に旋回した状態のまま錐もみ状態になり、パイロットの懸命な操縦虚しく海面へと吸い込まれていった。
 攻撃を済ませたすみれ大尉は、急降下した事によって増した速度を急上昇するためのエネルギーにする。その頃、左に旋回したWe-160艦上攻撃機は旋回によって速度を失っており、降下しようと機体を下に向けた時、後から降下してきた佐渡中尉機の攻撃によって撃墜されてしまった。
 それから十分後。
 すみれ大尉が次の目標を定めた時、佐渡中尉から通信が入った。
「中隊長、そろそろ機関砲弾も無くなりそうですし、敵もだんだん撤退し始めています。もう良い頃合いじゃないでしょうか」
「そうね、総指揮官からの帰還命令も、もうすぐ出るんじゃないかしら」
 二人が無線で話している時、すみれ大尉の後方にF-3C艦上戦闘機が付いた。すみれ大尉は、さも普通のことのように機体を降下させる。F-3C艦上戦闘機がそれに習おうと機種を向けた瞬間、佐渡中尉の烈風がこれも前から決まっていたかのような軌道を描いてF-3C艦上戦闘機に迫る。
 そして、相手のコックピットに20ミリ機関砲で寸分たがわない正確な銃撃を加えて撃墜する。
「総指揮官機から各小隊へ。敵攻撃隊は壊滅的な被害を受け後退している。我々も母艦へ帰艦する。繰り返す、各中隊は戦闘行為を中断して母艦への帰艦軌道をとれ」
 総指揮官から命令が入った。
「聞いた通り、私たちも後退するわよ。各小隊、あらかじめ決められた終結地点に今から二分後に集合」
 すみれ大尉は、部下に無線で命令する。命令を下すと、彼女も佐渡中尉と共にその地点へ向かう。

 すみれ大尉がその地点に着くと、五個小隊十機が旋回しながら待っていた。すみれ大尉は、部下を数えて全ている事を確認すると安心して言った。
「これより翔鶴へ帰艦する。着艦するまでは気を抜かないように。各機続け」
迎撃隊の総指揮官を先頭にすみれ大尉の中隊も翔鶴への軌道を取り、飛行する。
「中隊長〜、私は4機撃墜しましたよ〜」
 最初に通信を入れてきたのは、やはりレイカ少尉だった。
「そうなの北条中尉?」
「ええ、確かに彼女は4機撃墜しました。しかし、私の援護があっての4機です」
 レイカ少尉は、前の空戦の戦果を合わせると6機撃墜で、海軍の10機撃墜でエースパイロットという定義の半分を二度の空戦で稼いだことになる。しかし、今回は倍以上の敵機を相手にした迎撃戦であり、2、3機くらいは皆撃墜しているだろう。ちなみに、すみれ大尉は佐渡中尉と合計で8機撃墜した。一人で4機撃墜はそれほど珍しい戦果ではなかった。ただし、彼らは鈍重な爆撃機と攻撃機を入れての戦果で、私たちは戦闘機の撃墜数だけをカウントしていた。
「それはそうですけれど・・・・私だって頑張ったんです・・・」
北条中尉の指摘を受けて気を落としたのか、先ほどまでの元気な声とは打って変わって消えてしまうような小さな声で言った。
「そうね、レイカ少尉が頑張った事は確かね。でも、チームで戦っているのだからそのコンビネーションが大事よ。いくら自分が強くたって遼機を置いていって一人で戦っていたら、それで何機落としたとしても全然すごくないわ。そんな戦い方は、絶対にしちゃだめよ? それは心に刻んでおきなさい」
 すみれ大尉は、レイカ少尉にゆっくり一言ずつゆっくり言った。
「はい・・。心に刻んでおきます。北条中尉、中隊長、指摘ありがとうございました。レイカ少尉、これからはこういうことを言われないようにより一層頑張りまっす」
 後半になってだんだん元気を取り戻したようで、いつもの元気な声に変わった。
「うんうん。レイカ少尉、その意気よ。レイカ少尉以外のみんなもこの事はしっかり心に刻んで置くように」
 すみれ大尉が部下に対してこのようなことを言ったのは、部下に対して釘を刺すことであったが自分を戒める意味もあった。一人で何でもできると思っては大間違いなのだが、腕があると慢心しそうになってしまう事があるのですみれ大尉はいつも自分に言い聞かせていた。
 すみれ大尉は、他の中隊の戦闘機に眼を移した。いくら敵戦闘機と比べて性能が優れていても全員無傷といられないのは必然で、撃墜された戦闘機はあまりいないように見えたが翼に被弾しているもの、風防を損傷しているもの、今にも墜落してしまうのではないかと言うほど危なっかしい飛び方をしているものもいた。すぐ近くを飛んでいた戦闘機が突然火を噴いたかと思うとプロペラを四方に飛び散らせ、全身が火に包まれて海に墜落していった。
 すみれ大尉の機体は被弾こそ幸いなかったものの、すみれ大尉自身はかなり疲れていたので早く母艦に着艦して仮眠を取りたいと思っていた。

広大な海を飛んでいた戦闘機は行きにかけた時間を少し上回り母艦を視界に捕らえられる位置まで戻ってきた。先頭の戦闘機から順に母艦へと着艦していく。パイロットとして着艦の瞬間は空戦に次ぐ緊張の時である。陸上にある飛行場とは違い、空母の滑走路に当たる飛行甲板自体が上下左右に揺れているし機体のバランスを少しでも崩せば海へ真っ逆さまだ。ここに陸上機と艦上機の錬成時間の違いがあった。
母艦の周りを旋回しながら自分達の番を待っていた第113戦闘機中隊に、やっとその順番が回ってきた。
まず、中隊長であるすみれ大尉が着艦体勢に入った。すみれ大尉は機体の速度を規定の速さまで減速しながら母艦の後方から進入する。誘導灯を確認しながら母艦との距離をどんどん縮める。そして、母艦の艦尾を越えたら機体を少し引き起こして機体の下についているフックをワイヤーに引っ掛ける。一瞬機体が後方に持ち上がり完全に止まる。
すみれ大尉は、すばやく烈風から降りると飛行甲板の艦橋側へと走って移動する。佐渡中尉の機体が先と同じように着艦して、佐渡中尉はすみれ大尉のいるほうへと走ってきた。
「永子お疲れ様。今日もすばらしい操縦だったわよ。これなら、私なんかよりもあなたが中隊長をやったほうが良いんじゃないかしら?」
 すみれ大尉がグッドのサインを送りながら少し冗談交じりに言う。
「そうですねえ。私に中隊長の座を奪われないように頑張ってくださいね。すみれ大尉殿」
 佐渡中尉の方は、冗談交じりというよりも半分本気が混じっているような気持ちで言った。
 二人が話しているところに自分の機体から降りてきたほかの中隊のメンバーがやってきた。佐渡中尉はそれに気づいていたが、すみれ大尉はまだ気づいていなかった。これに何かを思いついたらしいレイカ少尉は、すみれ大尉にそっと近づくといきなり後ろから抱きついた。
「うふふ。中隊長、おつかれさまです〜」
 すみれ大尉は、抱きつかれた拍子にバランスを崩して倒れそうになったのをなんとか持ち直した。
「レイカ、急に抱きついてきたらびっくりするじゃない。それに、抱きつくにしてももうちょっと力の加減が出来ないの? もう少しで転ぶところだったのよ。も〜う、あなたは疲れというものを知らないのかしら?」
「む〜、私だって疲れてますよ〜だ。そんな体にむち打って中隊長の疲れをねぎらおうと思ったんじゃないですか〜」
 レイカ少尉は、少しすねたような顔をして言った。
「それなら、いきなり後ろから抱きつくのはおかしいでしょう。はぁ。おかげでかえって疲れが増したようだわ」
 レイカ少尉はいつも元気なのですみれ大尉も元気付けられることもあるのだが、かえって疲れてしまうときもある。
 しかし、それはいつもの事。すみれ大尉は戦火報告をしに行こうと話題を変えた。
「そうですね、みんなも疲れていますし報告をして休息を取りましょう」
 それに佐渡中尉が同意して他の隊員に促す。
 すみれ大尉が艦内に入ろうとした時には、レイカ少尉はすでにそこにいなかった。
 こういうときの行動は誰よりも早いのもレイカ少尉であった。
 戦果の集計を担当する上官の所へ行くと、案の定レイカ少尉が手を振りながら待っていた。
「早く戦火報告して休息しましょ〜」
 レイカ少尉が言ったからではなかったが、すみれ大尉たちは手際よく戦果を報告していった。
 報告が終わると、飛行服から普段来ている軍服に着替えるために更衣室に向かう。
「あ〜あ、もう汗だくだくですよ。早く着替えないとかぜひいちゃう。ね、レイカ」
 諏訪子少尉は、汗でぬれて肌に張り付いている飛行服の中に手を入れてパタパタさせながら言った。
「うん、そうだね。早いとこ着替えて休みたいなぁ」
 そう言いながら更衣室に入ると、自分の服が入ったロッカーを開いて着替え始める。疲れてはいたが、てきぱきと着替えを済ますとそれぞれの個室へと向かった。やはりレイカ少尉は一番早く個室に戻っていて、すみれ大尉が部屋に戻った時には心地良さそうな寝息を立ててベッドで熟睡していた。

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