戦乙女が舞い降りた地で、

架空戦記
長編小説一作目、架空の世界を舞台にした戦争物の作品です。

第6話 第113戦闘機中隊の休日


「我がセレバンテス帝国は、先日生起したスバート海海戦でルヴィアゼリッタ合衆国艦隊の主力艦の半数以上を撃沈しました。我が艦隊は旧式戦艦が二隻沈没し、一隻が中破しました。他に空母三隻が沈没、一隻が中破しました。
 この海戦でルヴィアゼリッタ合衆国に壊滅的な被害を与えることに成功しました。旧式戦艦しか残っていない合衆国海軍が我が海軍を脅かすことはもう出来ないでしょう。
 霧城連邦皇国とその同盟国リッシュメル王国が我が同盟に宣戦布告し、二日前あるアルデンテ島基地を攻略しましたが、敵は戦艦を八隻しか駐留させておらず我が海軍の主力艦隊が再編成出来次第反撃に向かう予定です。我が戦艦部隊が攻撃を仕掛ければ、たかが八隻しかいない戦艦は容易に撃滅できることでしょう。
 攻撃された際、1000人ほどの死傷者が出ましたが敵にもほぼ同数かそれ以上の被害を与えており航空機も30機以上を撃墜しています。
 霧城連邦皇国は、空母を主力にしていますが我が戦艦はそのようなものに撃沈されたりいたしません。反対に敵空母部隊を殲滅し、所詮航空機は戦艦の敵でないことを証明するでしょう・・・」
 セレバンテス帝国の軍部発表より一部抜粋。
「・・・先日生起した、アルデンテ島攻略作戦で我が軍は敵基地を攻略することに成功しました。我が方も投入戦力の約10%に被害を受けましたが1500人以上に被害を与え600人以上を捕虜にしました。これにより我が軍は前線基地を手に入れることが出来、これからの戦いを有利に進めることが出来るでしょう。これからの戦いでも少なくない被害を受けるものと思われます。しかし、我々は少しでも早く戦争を終わらせる努力も続けております。私とて兵士達を戦場に送るのは心苦しい思いです。ですが、どうか辛抱していただきたい。この戦争が終わるまで・・・」
 霧城連邦皇国、沙羅皇王の発言より一部抜粋。
 セレバンテスの軽快な軍歌に乗せて述べられた意気揚々とした戦況報告に比べて、霧城連邦皇国の方は、沙羅皇王が真剣な表情で一言ずつかみしめる様に話していた。これはそのまま国民の様子にも表れておりお祭り騒ぎ一色のセレバンテスに比べ霧城連邦皇国の方はいたって静かであった。



 話は変わって、いまや残党兵の掃討を完了して霧城連邦軍の前線基地になりつつあるアルデンテ島基地では工作部隊の修理した司令部で各軍の司令官達が集まって会議を開いていた。
「我々が脅威と言える艦隊は、再編成中のセレバンテス帝国を除くとこことここ。セージュ軍港にいる大セレネバ帝国の戦艦、空母部隊と本国の軍港に駐留しているガバメント王国の主力艦隊です。しかし、ガバメント王国の艦隊は同盟国のリッシュメル王国の艦隊が動きを制限しているため直接的な脅威にはなりえないでしょう。
 それに引き換え、大セレネバ帝国の艦隊はアルデンテ島に比較的近いところにあり再編成の完了したセレバンテス帝国の艦隊と合同して我々を叩きに来る可能性があります。また、単独で来る場合もあるでしょう。空母はともかく戦艦の数では敵の方が勝っているのですから。暗号解読班が解読した大セレネバ帝国の通信にもその兆候が見られます。今はまだ、そう断定するには情報が少ないのでどちらとも言えないですが可能性として考えておく価値はあると考えます」
 総司令官の参謀長がそう話した後、今度は基地司令に任命された司令官が立ち上がり、話し始める。
「そこで重要になるのがアルデンテ島に近づく艦隊の早期発見と当基地の防衛ですが、空海、そして海中、これだけ索敵をやれば必ずや敵艦隊を見つけてくれるでしょう」
室内の司令官達が、そこまでやれば十分だと満足したようで皆頷いていた。



 同日、その大セレネバ帝国の主力艦隊がいるセージュ軍港では・・。
「司令官、セレバンテス帝国から霧城連邦海軍がいるアルデンテ島を再奪還して欲しいとの要請を受けました」
「そうか。で? あちらも支援に何隻か出すのだろうな? 霧城も長砲身40cm砲搭載の戦艦二隻を配備しているのだからな。いくら、敵の戦艦数が少ないと言っても主力戦艦部隊に軽はずみな攻撃は出来ないからな」
「はい、先の海戦でほとんど無傷だった最新鋭戦艦二隻と新鋭大型空母2隻を派遣するそうです」
「おお、それは頼もしい。よし、それでは支援の戦艦が到着次第合同艦隊を編成し島の奪還へ向かうとしよう」
 セージュ軍港に駐留する艦艇は新鋭戦艦二隻と旧式戦艦四隻の計6隻の戦艦。正規空母二隻、軽空母三隻であった。他に重巡洋艦十二隻、軽巡洋艦十隻、駆逐艦四十隻であった。他の軍港にも小型空母数隻と巡洋艦八隻、駆逐艦三十隻ほどを駐留させているが、海上護衛任務に使われる艦である。だから自由に動かせる艦艇はこれがすべてであった。
 海軍部が暴走して戦争を始めたと言ったが、猪突猛進に事を進めるのではなくある程度計画を持って艦隊を動かしていた。
 リッシュメル王国の軍港攻撃はあまり賛成していなかったのであるが、セレバンテス帝国の要請を散々受け仕方なくしたものであった。そして、彼らの予想通り霧城連邦は宣戦布告をしてきた。しかしまだ、彼らは強気であった。先の海戦でセレバンテス帝国がルヴィアの艦隊を壊滅させたからだ。そうなれば、敵は戦艦を八隻しか持たない霧城連邦だけだ。それならば勝機はある。そう彼らは思っていた。
 とにかく、大セレネバ帝国はここに駐留する艦艇を使って艦隊を編成することになる。
 艦隊の編成が完了するのは、これから3週間後のことであった。



「あ〜、やっと休暇がもらえた。二週間も働き詰めじゃ疲れちゃうよね〜」
 集団の一番前を歩くレイカ少尉が誰に聞かせるでもなく言う。
「レイカちゃん、だからって休暇は四日あるんだから初日くらい寝てたって良かったんじゃない? 私はもう少し寝てたかったんだけどな〜。」
「諏訪子ちゃん、寝るのは明日でも出来るでしょ〜。今日しか出来ないことがあるんだよ〜」
「なに〜、今日しか出来ないことって?」
「旗艦の「伊瀬」で映画を見せてもらえるんだよ。中隊長にお願いしたら伊瀬の副長さんに話をつけてくれて今日の午前だけ私達だけに図書室を使わせてくれるって約束してくれたんだって〜。そうですよね〜、中隊長〜」
 諏訪子少尉は、レイカ少尉と共にすみれ大尉へ視線を移す。
「ええ、その通りだけど近藤中佐にあったら挨拶くらいしなさいよ。それに、私にもお礼の一つくらい言っても良いんじゃない? あ〜、なんで私がレイカなんかのために近藤中佐に映画が見たいとレイカが言っているから図書室を使わせてくださいなんてお願いしなくちゃいけないの? 私はビリヤードでもやりたいわ〜」
「では、レイカたちはスファラルド中尉に任せるとして私達は酒場に行きませんか? 近くにある酒場にビリヤード台がありました」
 すみれ大尉は、一度その話に乗ろうとしたが首を横に振ると佐渡中尉に向かって言った。
「やっぱりだめよ、一応私がお願いしたんだから私も一緒に行かなきゃ。それに艦内を見に行くのも悪くは無いと思う。映画が見たい気持ちもあるしね」
 すみれ大尉達は、軍港と停泊している「伊瀬」を繋ぐ桟橋のところまで来た。
すると、桟橋のすぐ近くで近藤中佐と他の誰かが話していた。彼は、すみれ大尉に気づくと話を中断してこちらを向く。
「申し訳ないのですが、もう少しお待ちいただけますか? あと数分で終わりますので」
 すみれ大尉は顔の前で両手を左右に振ると、
「いえいえ、お気になさらずに。元々、私が無理をお願いしたのですから」
 と言った。
「はい」
 そう近藤中佐は頷くと、またその誰かと話し始める。そして、彼女の時計で5分ほど経った時に近藤中佐は話を終えてすみれ大尉たちの方へ歩いてきた。
「それでは参りましょう。私の後について来てください」
 すみれ大尉達は、近藤中佐についていく。艦内に入って図書室に歩いていくと、途中何回も艦内要員と会ったが、12人もの女性が近藤中佐のあとについていっているのを物珍しそうに見ていた。それもそのはず、女性の兵士も多くいると言っても後方任務を希望する者が多いので、2200人もの乗員を持つ戦艦「伊瀬」でも女性はほんの数人しかいない。それが12人もいるのだからさぞかし珍しい事と思ったことであろう。
 図書室は、艦の中に入ってから10分くらい歩いた所にあった。近藤中佐は、扉を開けて中へ入るように言った。
 図書室の中に入った中隊の面々は、中にいた乗員と顔を合わせた。
「近藤副長から、話は聞いております。私はここにいますので、分からないことがあったらどうぞ聞いてください」
  その乗員は、レイカ達と同じくらいの年代らしく着ている軍服の階級章は少尉を表していた。
「では、近藤中佐はどちらへ?」
 すみれ大尉は、その少尉に聞いた。
「近藤副長は、艦橋に向かうと思います。仕事が山済みみたいなので」
 すみれ大尉は、それを聞くと図書館の扉の方へ歩いていった。そして、今まさに艦橋に行こうとした近藤中佐を呼び止める。
「近藤中佐」
 彼は、すみれ大尉の方に振り返った。
「なんでしょう? すみれ大尉」
「今回はお忙しいところ申し訳ありませんでした。図書室をお貸し頂きありがとうございます」
「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ。図書室には、映画などがたくさんあるのでどうぞ楽しんでいってください」
 そう言うと、彼は艦橋の方へ歩いていった。
 すみれ大尉が図書室の中に戻ると、さっきの少尉から機械の使い方を教わったのか思い思いに、背表紙に映画のタイトルが書かれた箱を持ってきていた。
「あ、すみれ大尉も見たい映画のDVDを持って来たら良いですよ」
 レイカ少尉が言った。
「うん? DVD?」
 すみれ大尉は、その意味がわからなかった。すると、さっきの少尉が寄ってきて説明してくれた。
「DVDと言うのは、記憶媒体の事です。映画フィルムのようなものといえばお分かりになりますか?」
「ああ、なるほど。それの中に映画の映像が入っているんですね」
「はい、そうです」
 すみれ大尉は、彼の後についてそのDVDのある所へ歩いていった。そこは、隣の部屋だった。
 彼は、収納棚を指差しながら説明をする。
「ここにあるのが、1940年代の物です。奥に行くほど新しいものになります。反対に、手前にいくほど古いものになります。また、列によって歴史の映像から娯楽映画まで色々あります。では、私は先ほどの部屋にいますので」
 彼が部屋を移って行った後、すみれ大尉は棚に収納されているものの1つを取ってみる。それは、彼女が好きな監督の最新短編映画だった。いや、今はまだ完成してもいないはずだ。彼女はそれをとろうと思ったが、試しにもっと新しい物(彼女から見れば未来の映画だが)をある棚へと移動した。
さっき手に取ったものは、箱の絵が手書きのものだったが、ここ箱には写真が張ってあった。実は、コンピューター・グラフィックスなので写真ではないのだが彼女には写真にしか見えなかった。
すみれ大尉が1つ手にとって見ると内容は、1940年代の戦争に参加した女性兵士達の戦いを描いた物のようだ。つまりは、今の戦争が題材だ。
 すみれ大尉は、他にも何個か手に取ってみたが、最終的にさっきの最新映画と、女性兵士が出てくる物の二つを持っていく事にした。
 そして、最初の部屋に戻ると少尉が近づいて来て言った。
「それでは、また私について来てください。私が映像の見方を教えますから」
 今度はさっきとはまた違う部屋に通された。
そこは、部屋の中に何個も仕切りがあってすでに映画を見始めている中隊員のみんながいた。
「じゃあ、ここの椅子に座ってください」
 その仕切りの1つに案内にすると、すみれ大尉を座らせて映画の見方を説明し始めた。そして、2分くらいで説明してすみれ大尉が分かりましたと言うと、仕切りの中から出て行った。
ヘッドフォンをしたすみれ大尉は、まず好きな監督の映画を見ることにする。
 彼女の目の前の画面に、映画の最初のシーンが移る。その映画は、いわゆる恋愛物であった。
 映画館でしか見に行った事のない映画をこんな小部屋で見るのは初めてだったが、自然に見入っていった。
 その映画は、1人の女学生がお金持ちの家の1人息子に恋をするというもので、この映画監督の得意とする恋物語の典型だった。
 短編だったその映画はあっという間に終わってしまって、次の映画を見ようとDVDを入れ変える。
今度は、さっきとはうって変わって戦場のワンシーンから始まった。主人公の陸戦部隊が、物陰に隠れながら敵部隊に銃撃を加える。回りは男性ばかりの中を、女性兵士の部隊が負けず劣らずの勢いで銃撃をしている。そこに、空から友軍の航空機部隊の支援爆撃が行われる。そのシーンが終わると兵士達の宿舎のシーンに切り替わった。
と言うような感じの映画が、3時間ほど続いた。



 私は、すみれ大尉たちが映画を見終わって帰ってくるのを待っていた。
 すると、隣の部屋からすみれ大尉が戻ってきた。
「どうですか、すみれ大尉。楽しめましたか?」
「ええ、とっても。今回は、無理を言ってどうもすみませんでした。本当にありがとうございます」
 すみれ大尉は、満面の笑みを浮かべながら言った。私は、彼女の笑顔と感謝の言葉に照れて顔を赤くしながら言った。
「いえいえ、これくらいどうって事ないですよ。まだ、見たいものがあるなら借りていっても構いませんよ」
 そこへ二人の話を聞いていたらしく、レイカ少尉がアニメのDVDを持ってやってきた。
「え、貸してくれるんですか?」
「ええ、どうぞ。それなら、再生機もお貸ししましょう」
 すると、レイカ少尉からDVDを取り上げたすみれ大尉が、私に向って言った。
「すみません、図書室をお貸し頂いただけで十分です。レイカ、これ以上近藤中佐に迷惑をかけるんじゃない」
 レイカ少尉は、笑顔から急に下を向いて言った。
「あ、すみません。ちょっと調子に乗りすぎました。映画を見せてくれただけでも良かったと思わなくちゃいけないんだった」
「レイカさん、借りて行っても全く問題ありませんよ。どうぞ、再生機です」
 レイカ少尉は、ぱっと笑顔になって私の手を握り大きく振りながら言った。
「ありがとうございます。どうしても見たいのがあったんです〜」
「う〜ん、なんだ〜? あ、レイカか。誰が、あんな大声出したのかと思った」
 そういって最初の部屋に戻ってきたのは、彼女の親友の諏訪子少尉だった。
「あんたは、ただでさえ無理言ってるんだからこれ以上あまり迷惑かけるんじゃないよ」
「もう。諏訪子ちゃんまで中隊長と同じ事言う。諏訪子ちゃんだって映画見に来たじゃない」
「あ、そうだったわね。それは良いんだけど、レイカの手にある機械は何かな?」
 諏訪子少尉は、レイカに歩み寄り、その機械に顔を近づけて言った。
「あ、これはね、え〜と、映画のフィルムの再生機。近藤中佐に貸してもらったんだ」
 レイカ少尉は、私に同意を求めるようにこちらを向いた。
「ええ、そうですよ。諏訪子少尉もまだ見たいのがあったら、1つか2つくらいなら借りて行って良いですよ。すみれ大尉もいかがですか?」
 私の提案に、最初は遠慮していたすみれ大尉だったが他の中隊員も借りていったので、では、1つだけと言って借りた。
 彼女達が帰ろうとしたとき、私は言い忘れていた事があったのを思い出した。
「あ、言い忘れていたのですが、機械を貸した事は他の人には言わないでくださいね。本当は、貸し出し禁止の物なので」
「わっかりました〜。このレイカ少尉、ほかの人にはぜ〜ったいに話しません」
 レイカ少尉が、力いっぱいに敬礼しながら大きな声で言った。
「こらレイカ、もっと小さな声で話しなさい」
 すみれ大尉が、レイカ少尉の頭をこつんと叩いた。
「ご迷惑をおかけしてすみませんでした。ほら、レイカも言いなさい。元はと言えばあなたが言い出したんでしょう」
「あの、映画を見させてくれて、借りさせてくれて、どうもありがとうございました」
他の隊員達も、礼をして出て行った。

 彼女達、第113戦闘機中隊の面々は一回自室に戻って借りてきた物を置いた後、各自別れて休日を過ごすことにした。
 レイカ少尉は、借りてきたアニメを早速見始め、諏訪子少尉は、ちょっと寝るからと言って寝てしまった。他の面々も、思い思いの場所に散っていった。

 すみれ大尉と佐渡中尉は、伊瀬に向かう途中に佐渡中尉から聞いた酒場に向っていた。
 しかし、途中で食糧の配給所の前を通り過ぎた時、すみれ大尉が口を開いた。
「ねえ、永子。ビリヤードやりに行く前に昼ご飯食べない?」
「そうですね、昼ごはんのことをすっかり忘れていました」
 すみれ大尉はカレーと味噌汁を食べ、佐渡中尉はスパゲッティを食べた。
 そして、最初の目的地に向った。

 その目的地に着いたのは午後2時くらいで、佐渡中尉の話の通りビリヤード台があった。二人は、早速ビリヤードを始めることにする。
 すみれ大尉は、普通の人に比べれば腕がある方だったが佐渡中尉はもっとうまかった。
 ビリヤードを何回もやったが、すみれ大尉は一回も勝つことができなかった。
「もう、少しくらい手加減してくれたって良いじゃない。一回くらい勝たせてよ」
「私は、いつも本気で行く性格なので」
 すみれ大尉も、そこまではっきり言われると言い返せなかった。
「じゃあ、渡しお酒飲んでくるわ」
 どうしても勝てないときは、お酒を飲みに行くといって逃げるのが常であった。
「では、私も」
 佐渡中尉が続こうとしたとき、2mはあろうかという兵士が彼女のもとにやってきた。
「ちょっと、そこの姉ちゃん。一緒にビリヤードやらないか?」
 その声に気づいたすみれ大尉が、ワインの入ったグラスを持ちながら言った。
「彼女と対戦するのは止めておいたほうが良いわよ。どうしてもやるというのなら、止めはしないけれど」
「ふん、俺は、仲間の中じゃ1番腕が良いんだぜ。女なんかに負けてたまるか」
 佐渡中尉は、顔色1つ変えずに言った。
「対戦は快く了承いたしますけれど、結果がどうなっても知りませんよ」
「じゃあ、何か賭けようぜ。俺が勝ったら一緒に部屋に来な。お前が勝ったら、そっちの好きなようにして良い」
「分りました。もう一度聞きますけれど、本当によろしいのですね?」
「ああ、良いよ。そんなこと聞くって事は、びびってんじゃないか?」
「それはそちらの事じゃなくて? では、始めましょう」

 佐渡中尉が最後の玉を落としながら言った。
「また、私の勝ちですね」
「いや、今のは無しだ。もう一回やり直しだ」
 彼女は、10回連続で勝利していた。
 顔を真っ赤にしたすみれ大尉が、グラスを危なっかしそうに持ちながらその男に向かって言った。
「もう、負けを認めたらどうよ? 男なら約束はしっかり守らなくちゃだめよ」
「もう一回やりますか? まあ、結果は同じだと思いますけれど」
 佐渡中尉が、止めの一言を言った。その言葉に、降参した事を示すように両手を挙げた。
「それでは、約束どおり私の好きなようにしてもらいます。そうですね、こういうのはどうでしょう。私とすみれ大尉のお酒の勘定を払ってもらうって言うのは」
「それ良いわね〜。つまり〜、好きなだけ高いお酒を飲ませてくれるって訳ね。助かるわあ」
「異存ありませんわよね?」
「あ、ああ。仕方ない」
 すみれ大尉は、それを聞くとマスターの後ろの棚に並んでいるお酒の中から1つを指差して言った。
「マスター、そこの一番高いお酒頂戴」
 佐渡中尉は負けた兵士に向って言った。
「あなたは知らないかもしれないけれど、彼女は大酒飲みなのよ。まあ、覚悟しておく事ね」
そう言ってカウンターの所に行った佐渡中尉も、お気に入りのお酒を注文する。
「言い忘れていたけれど、私も結構飲むほうだから」

 歩けないほど酔っぱらったすみれ大尉に肩を貸しながら、佐渡中尉は空母翔鶴に向けて歩いていた。
「永子〜、すごくかっこ良かったわよ。今頃、あの兵士すごく後悔しているでしょうね」
「中隊長も少しは抑えたらいかがです? いくら好きなだけ飲んで良いって言われても、あそこまで飲むことはないと思うのですが」
「もう、良いのよ〜。そういう約束でしょ〜」
 第113戦闘機中隊の面々は、久々の休日を満喫した。

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