戦乙女が舞い降りた地で、

架空戦記
長編小説一作目、架空の世界を舞台にした戦争物の作品です。

第4話 スバート海海戦 ルヴィアゼリッタ合衆国VSセレバンテス帝国


 第一水上打撃艦隊と第一遊撃隊が陸軍部隊を護衛しながら、セレウベル海を北上しているころ。さらに北のスバート海ではこれらの艦隊の十倍以上の艦艇がある海域に集結しようとしていた。一つはルヴィアゼリッタ合衆国海軍のスバート海艦隊である。彼らの戦力は、先の三年計画で建造された戦艦十隻、巡洋戦艦六隻とそれ以前に建造された旧式戦艦十一隻の計二十七隻の主力艦。新鋭のエセックス大型空母が二隻、ヨークタウン級の大型空母が三隻、ワスプとチャレンジャーの中型空母二隻の計七隻の空母。他に重巡洋艦十三隻、軽巡洋艦十六隻、駆逐艦七十二隻である。これを、中速戦艦部隊の第一任務部隊、高速戦艦部隊の第二任務部隊、大中七隻の空母からなる第一空母部隊に分けている。
これは、合衆国が要する海軍戦力のほとんどを投入した艦隊である。本国に残った戦力は沿岸警備用の小型艦艇がほとんどだ。つまり、この艦隊が全滅したとき、それがこの国の終わりとも言える。それほど合衆国はこの決戦にかけているのである。

 それに対し、もう一つはセレバンテス帝国の第一連合艦隊である。戦力は大海艦隊計画で建造された戦艦十六隻と巡洋戦艦八隻、これに最新鋭の重高速戦艦の二隻と旧式だが比較的新しい戦艦二隻を加えた二十八隻の主力艦。マリアン級大型空母を四隻、グレメス級中型空母を四隻、リマー級小型空母三隻の計十一隻。他に重巡洋艦十八隻、軽巡洋艦十九隻、駆逐艦九十二隻。これを合衆国同様、戦艦二十隻を基幹とする第一艦隊、巡洋戦艦八隻を基幹とする第二艦隊。そして十一隻の空母を第一機動部隊と第二機動部隊に分け、決戦海域に進撃していた。なお、これだけの大戦力を抽出してもセレバンテスにはまだ他にも多数の戦闘艦艇が存在した。
 両艦隊とも、これらの他に多数の補給部隊を従えている。

「我々は、投入しうる全艦艇を出撃させた。後は、これから起こる艦隊決戦に勝利し敵に我々の強さを知らしめてやるのだ」
 スバート海艦隊の総司令長官のシュタイナー・ハルトマン大将は旗艦『サウス・ダコダ』の艦上で意気揚々とそんな独り言を言った。
 この日ために各種レーダーの開発が行われていたし、数量では勝る敵艦隊を撃破する戦法を日夜考えてきた。その甲斐があり事前の図上演習ではおよそ七十%の確立で敵艦隊に勝てるようにもなった。
 そしてついに、スバート海艦隊はセレバンテス帝国の第一連合艦隊との決戦海域に到着しようとしていた。後は敵艦隊発見の報告を待つだけだ。
 このとき、シュタイナー大将は自分たちの勝利を決して疑わなかった。量では、上回っていても質ではこちらの方が明らかに上だと判断していたからだった。

 そのころ、シュタイナー大将の艦隊から遠く離れた海上を一機の艦上攻撃機が飛んでいた。その姿は渡り鳥の群れから迷子になってしまった鳥のようだった。
 その航空機は、二十機以上飛ばされた偵察機の一つである。
 もうすぐ、燃料も半分になろうとしているしもうすぐ引き返そう、そうパイロットが思い出したとき、それは現れた。空高くからでもはっきり分かる大きな艦、あれは戦艦だ。それが十五隻以上いる。後方には空母もいた。操縦桿を握っていたパイロットは胸を躍らせた、そしてすぐ後ろを向くと通信員に言った。
「緊急伝だ。我、敵主力艦隊ヲ発見セリ。敵艦隊ニハ戦艦十五隻以上ヲ確認セリ、敵大型空母モ四隻以上ヲ確認セリ、だ」
 そうパイロットが言い終わる前に、通信員は電信を打ち始めていた。
 彼らの航空機を迎撃しに来たのであろう、遥か下の海上の方から無数の点が接近しつつあった。
それに気づいたパイロットは操縦桿を倒し、一気に離脱にかかる。攻撃機はその姿に似合わないすばやい動きで雲の中に隠れてしまった。
「俺の機体に追いつこうなんて百年早いんだよ」
セレバンテス帝国の迎撃機は雲の中を手当たり次第に探したが、結局その攻撃機は見つからなかった。

 その電信はすぐさま艦隊司令部に届けられた。
「シュタイナー大将、敵艦隊が見つかりました。戦艦十五隻以上、空母も四隻以上確認したそうです」
「よし、それでは作戦通り攻撃隊を発進させよ。敵空母を一隻でも多く血祭りにあげろ!戦艦は攻撃しちゃいかんぞ。あくまで第一目標は空母と護衛艦艇だ。空母部隊指揮官にもそう念をおせ」
「了解」
 戦艦を目標から外したのは、今まで航行中の戦艦を撃沈したと言う前歴はなく、それよりも空母と巡洋艦以下の護衛艦艇を撃沈したほうが効率が良いと判断したからだった。また、空母を撃滅できれば制空権を取ることができ弾着観測機の援護で砲撃戦を有利に推移させることが出来るという考えもあった。

 命令を受けた空母部隊では、司令部からの命令を受け航空機の発艦をさせていた。
「いよいよ、我ら空母部隊の威力を見せつけるときが来たのだ! 派手に敵を攻撃して来い。君らが敵空母を一隻でも多く血祭りにあげて帰ってくることを願っている!」
 空母の飛行甲板に発艦待機中だった攻撃隊が一機また一機と空へ飛び上がっていく。
 空母部隊指揮官の、ハルバルト中将は飛び立っていく航空機に一機ずつ、グッドラック!と言いながら腕を千切れんばかりに振った。

 スバート海艦隊から飛び立った攻撃隊は、戦闘機が165機、爆撃機が170機、攻撃機が195機の合計530機の大攻撃隊である。
 この大攻撃隊は、一直線に敵主力艦隊に向けて飛んでいった。ルヴィアゼリッタ合衆国は、これ以降も空母部隊からの攻撃隊発艦を行ったことがあったがこれほどの大攻撃隊を発艦させたのは今回が最初で最後であった。

 彼らの攻撃隊は、敵主力艦隊から40マイルの地点で敵迎撃部隊の攻撃を受けた。
戦闘機隊は、直ちに敵戦闘機にむけて応戦を行う。そして、攻撃機と爆撃機は戦闘機隊が敵迎撃機の相 手をしている間に敵主力艦隊に迫っていった。
 そしてついに敵主力艦隊の上空にさしかかった。
ここで、攻撃隊を二つに分ける。一つは戦艦部隊の護衛部隊を叩く部隊、もう一つは空母部隊を叩く部隊だ。
 攻撃隊指揮官は、空母部隊攻撃隊の方へ別れた。戦艦部隊攻撃隊は、別の指揮官に任せている。

 そして、攻撃隊指揮官は、自分たちの獲物を見つけた。
 戦艦とは違い、艦上構造物がほとんど無いまっさらな飛行甲板を持つ空母が大中合わせて6隻いた。まさしく敵空母部隊であった。
 その空母の艦上には、今まさに発艦しようとしている航空機が所狭しと並べられていた。
 攻撃隊指揮官は、胸躍らせて言った。
「全機、突撃せよ!」
 その号令とともに、爆撃機隊は急降下を開始し、雷撃隊は、敵空母を両側から挟撃しようと機動を開始した。
 敵空母と護衛艦艇からも、対空砲火と航空機がいくつも表れてきたがパイロットたちは全く怯まず攻撃態勢を取り続けた。
「撃ち落せるもんなら、やってみな。 喜んで、対空砲火の弾幕の中に飛び込んでやる」
 最初に狙われたのは、マリアン級大型空母の二番艦『ノエリマース』だった。
 ノエリマースとその護衛艦艇も敵攻撃機と爆撃機を何機も撃ち落したが、攻撃隊はなお突撃してきた。かえって、勢いが増した様でもある。
 まず、攻撃を加えてきたのは雷撃隊からだった。ノエリマースの両側に分かれていた攻撃機はいっせいに魚雷を投下した。それらの魚雷は白い航跡を描いてノエリマースへ進んでいく。
「艦長、両側から雷跡8以上」
「機関、全速後進。取り舵いっぱーい」
 ノエリマースは前につんのめるように速度を落とすと左に舵を切った。
 すると魚雷は、航跡を描きながらさっきまでノエリマースがいたところを通り過ぎた。
 しかし、今度は爆撃機が攻撃してきた。爆撃機は空母に向けて降下し続け、もう少しで飛行甲板に激突するという所で爆弾を投下し、今度は急上昇した。
 魚雷は避けられたノエリマースであったが、この爆撃は避けられず計7発の爆撃を受けた。この爆弾は、飛行甲板の上に待機していた航空機を巻き込みながら爆発した。航空機はそのお腹に爆弾や魚雷を搭載しており、それらの誘爆もあいまってノエリマースは盛大な炎を上げた。
エリマースはそれでも航行を続けていたが、突如爆発した艦内の爆弾によってノエリマースの運命は決まった。艦の内外からの爆発でノエリマースは急速に沈下していった。
 そして、後に残ったのはかつて『ノエリマース』であったものの破片だけだった。

 他の空母も、ノエリマースと同じ運命をたどっていた。
 マリアン級大型空母の三番艦『アシュフォード』は、魚雷6発、爆弾12発を受け轟沈。
 グレメス、サンドラも沈没は時間の問題だった。
 誰もが空母部隊の全滅を確信したとき、救世主が現れた。
 『マリアン』『アシュトル』『リマー』『キメルニア』『セシルフォード』の戦闘機隊だ。 第二機動部隊の指揮官は敵攻撃隊を索敵機が発見した後すぐ搭載していた戦闘機のほとんどを発艦させていた。
 それが今到達したのである。
 機数では、上回るものの機体性能では戦闘機の方が圧倒的に上である。
 護衛戦闘機隊は、今もまだ迎撃戦闘機隊と戦っていた。
 今度はこっちが攻撃する番だ。そう言っているかのように攻撃隊に襲い掛かった。
 性能で劣勢な攻撃機や爆撃機は、一方的に撃墜されていく。攻撃隊側も備え付けの機銃で応戦するがほとんど撃ち落せなかった。さっきまでとは、形勢が180度変わった。今度は攻撃隊が逃げる番だ。

 そして、数十分後には空にはセレバンテス帝国の戦闘機が悠々と乱舞していた。
攻撃隊は、攻撃隊指揮官機を含む七割以上の航空機を喪失し、それらは編隊も組まずに自分の母艦へとただひたすら機体を飛ばしていた。
 今も一機が急に機首を下げ、海面に激突した。パイロットが絶命したのであろう。
 しかし、迎撃したセレバンテスも大きな被害を負った。空母三隻を撃沈され、二隻は航行不能になってしまった。この二隻は、後に味方の駆逐艦の魚雷によって沈められた。航空機も空母と運命をともにしたものも含めると200機以上を喪失した。護衛艦艇の損害はもっと甚大だ。事実上第一機動部隊は消滅したのである。
 また、戦艦部隊の攻撃に向かった隊も護衛艦艇へ多大な被害を与えた。彼らも第二機動部隊の迎撃にあったが、それまでに多数の艦を撃沈していた。総計すると攻撃隊は、空母五隻、重巡洋艦五隻、軽巡洋艦八隻、駆逐艦二十二隻を撃沈破した。
 第一空母部隊の攻撃隊は、自分たちの攻撃隊の壊滅と引き換えに敵第一機動部隊を消滅させ、戦艦の護衛部隊にも多大な被害を与えることに成功した。

 空母部隊同士の攻撃が続いている間も、両戦艦部隊は着々と距離を縮めていった。
 そして、五時間後。
「シュタイナー大将、敵主力艦隊です」
部下の報告に対し、シュタイナー大将は前方を見た。そこには戦艦部隊だと思われる黒い点が何個も見えた。
「ついに、このときが来たか。よし、戦闘機隊発艦。弾着観測機が飛べるように制空権を獲得するのだ」
 ルヴィアゼリッタ側は、昨日の生き残りと直掩機を加えた、130機を送り出した。
対して、セレバンテス側は第一機動部隊の生き残りの60機と第二機動部隊の100機を発艦させた。
セレバンテスの方が機数は30機多いが、互角以上に戦った。
結果的にセレバンテス帝国の方が辛くも制空権を獲得することに成功し空には敵の弾着観測機が飛んでいた。

 シュタイナー大将は、制空権が取れなかったことを悔しがった。しかし、それならそれでこちらの本気を見せてやろう。そう彼は思った。
「シュタイナー大将、我が戦艦の主砲射程距離にもうすぐ入ります」
「よし、では全艦艇に作戦開始を下令。作戦計画通りに動くように指示せよ!」
「了解、こちらスバート海艦隊旗艦サウス・ダコダ。全艦艇作戦開始!」
 その号令と共に第一任務部隊は取り舵を切り、敵に対して左に大回頭を始めた。
 第二任務部隊は、反対に面舵を切り敵の巡洋戦艦部隊に向けて進んでいく。

 そのころ、第一連合艦隊の旗艦『フーロル・メス・ギガント』では、総司令長官のエトヴァス・ツヴィリンゲが言った。
「敵は戦艦を横一直線に並べ、砲撃する作戦を取るつもりか、ではこちらもルヴィアの挑戦を受けて立ってやろうではないか。第一艦隊は敵第一戦艦部隊と平行になるように面舵を切れ! 第二艦隊は、敵第二戦艦部隊を迎撃せよ!」
 その号令と共に、第一艦隊はルヴィアの第一任務部隊と平行になるように舵を切った。
 第二艦隊は、最大戦速で第二任務部隊を迎撃しようと進んでいった。

 先に砲撃を開始したのは、第一任務部隊と第一艦隊であった。
「オールファイアー」
 先に砲撃を始めたのはルヴィアの方だった。スバート海艦隊の旗艦サウス・ダコダがその艦に搭載する三連装40p砲で敵艦に向けて砲撃を開始した。
 そして、後続の艦も撃ち始める。
「撃ち方始め!」
 セレバンテス側の第一艦隊はルヴィアに少し遅れて砲撃を開始した。
 それはまるで、自分よりも主力艦の数で劣勢なルヴィア側に猶予を与えたのかのようだった。
 とにかく、双方の艦隊は砲撃を開始したのである。
 両艦隊の周辺に水柱がいくつも上がる。最初のうちは両艦隊とも至近弾は多数あったが命中弾を出すことがなかなか出来なかった。しかし、時間が経つにつれ砲撃の精度が高くなっていき命中弾を出す確率が高くなっていった。とりわけ命中率が高いのはセレバンテス側の新鋭重高速戦艦の二隻であった。この二隻は最新鋭であるだけに射撃指揮装置も最新のものを搭載しており乗員も精鋭が集められていて艦隊で始めて命中弾を出したのも彼らの艦であった。
 さらに彼らの命中精度の後押しをしたのが空からの支援であった。
「敵サウス・ダコダ級三番艦、左舷全部に一発、右舷中央部に二発命中。速力が若干落ちている模様」
 それは、先から空を飛んでいた水上偵察機からの弾着観測だった。
 偵察機を飛ばせなかったルヴィア側も差を補おうと必死に弾道計算をしていた。
 そのおかげもあって、敵戦艦一隻を落伍させることに成功し一隻を中破させた。

 その頃、第二戦艦部隊同士はというと、すれ違いながら互いを砲撃しあっていた。しかし、訓練をしてきたといっても相対速度は60ノットを越え容易には命中しなかった。
「何をやっている! レキシントン級巡洋戦艦をさっさと倒して第一戦艦部隊の支援に向かうのだ」
 その高速の中でも乗員たちは一刻一刻変わる弾道の計算を必死にした。
そしてついに、レキシントン三番艦サラトガへ二発の命中弾を出しサラトガは一気に地獄の様相を出し始めた。レキシントン級巡洋戦艦は33ノットという高速で航行できるがその代わりに装甲を犠牲にしており重巡洋艦ほどの装甲しかない。そんな貧弱な装甲に40p砲が二発も当たったのである。たまったものではない。すぐに沈没することはなかったが速度を大幅に落とし戦列から離れ孤立してしまった艦を無慈悲にも第二艦隊は砲火を浴びせたちまち轟沈させてしまった。生き残ったレキシントン級が猛反撃を加えるが第二艦隊も手加減するつもりは全くなく猛烈な砲撃を加えた。
 そして、今度はコンステーションに砲撃が当たった。だんだん精度が良くなってきた砲撃はコンステーションには五発も当たった。前方部分に二発、後部に一発、中央部分に二発命中した。命中した砲弾は舵を損傷させ機関を痛めつけ、中央部に命中したうちの一発は艦橋の目の前に命中し艦橋要員の多数を殺傷した。そして、コンステーションは戦列から離れていった。
 このときはまだ第二艦隊の戦艦は無傷であった。しかし、戦場の女神は第二艦隊ばかりに味方しているわけではなかった。今度は二隻の僚艦をやられた第二任務部隊の砲撃が第二艦隊に命中した。
 アンハルト級巡洋戦艦メラベンである。メラベンに命中した砲弾は三発で、その三発どれもが右舷中央部に命中した。アンハルト級巡洋戦艦はレキシントン級と違って戦艦と同程度の装甲を施してあり多少の砲弾の命中にはなんともないが、同じ場所に三発も命中したとあってはアンハルト級であっても平気でいられなかった。
 メラベンは二つある煙突のうち一つを破壊されその煙突は簡単にひん曲がり、近くにあった高角砲や機銃を根こそぎ壊していった。爆風に吹き飛ばされた水兵もいた。爆発の後には、ぐちゃぐちゃになった機械類と水兵たちの死体が折り重なって壮絶な状況になってしまった。水兵たちの死体は、原形を留めているのはまだ良いほうでそれがなんであったか分からないほど粉々になってしまったものもあった。
 メラベンは、第二艦隊の命令で少数の駆逐艦と一緒に戦列を離れて行った。
 その他にも命中弾、至近弾を浴びた艦が多数あって戦艦などはまだ良いが主力艦に付き添っていた巡洋艦や駆逐艦にとっては戦艦部隊の砲撃はたまったものではなく第二任務部隊と第二艦隊の両艦隊も補助艦艇は多数の撃沈艦、損傷艦を出した。
 その頃には二つの艦隊の距離はある程度離れてしまっていて反撃を加えるには反転して砲撃を加えるしかない。
 第二任務部隊は一斉に転蛇を切り、第二艦隊を追いかけるが第二艦隊は全速力で今も砲撃を続けている第一艦隊の方へと舵を切った。
「これでは第一任務部隊が挟撃されてしまうではないか。なんとしても敵第二戦艦部隊を第一任務部隊へ向かわせるな!」
 第二艦隊の最高速力より第二任務部隊の方が3ノットほど上回っているが、それはレキシントン級が無傷の場合である。サラトガとコンステーション以外は今も航行には支障はないが多少なりとも損傷をえていたため最高速力は出せなかったのである。
 だがそれは相手も同じである。セレバンテス側も少なくない命中弾、至近弾を浴び損傷を負っていた。このまま、全速力で追いかければ敵が第一任務部隊を挟撃する前に追いつけるだろう。
 しかし、彼らが第二艦隊に追いつくことはなかった。セレバンテスにとってはこれも計画のうちだったのである。
「司令、敵機出現。前方三時方向。数50機以上」
「総員、対空戦闘用意。たかが50機だ。返り討ちにしてやれ」
 第二任務部隊の戦艦から駆逐艦に及ぶ全艦艇が対空砲の仰角を上げいつでも攻撃を開始できるように準備を整える。
 セレバンテスは予定通り60機に上る攻撃隊を発艦させていた。その半数は前哨戦の空母戦で生き残ったパイロットとその愛機であった。彼らは味方の仇をうとうと空母部隊司令官に命令されたとおり第二任務部隊に向かっていた。任務は第二任務部隊を足止めすること。
「さっきの戦いの仇だ。敵は装甲の薄いレキシントン級だ。一隻や二隻、いや運がよければ三隻は撃沈できるかもしれん。徹底的に叩くんだ!」
「了解」
 攻撃隊隊長の言葉に隊員は力強く返答する。
「対空砲の射程内に敵攻撃隊入ります」
「よし、撃ち方はじめ」
 号令と共に一斉に対空砲を撃ち始める。
「全機、突撃!」
 攻撃隊側も必死の攻撃を開始する。狙うはレキシントンのみ。彼らは、目の前にいた第二任務部隊旗艦レキシントンを集中的に狙った。網の目のような対空射撃をこれまた曲芸のような身軽さでかわし、レキシントンへとひたすら近づく。
「もう少し、もう少し。いまだ、魚雷投下」
「艦長、右舷より雷跡4」
「面舵いっぱい」
 レキシントンは大きく舵を切る。しかし、雷撃を避けても今度は爆撃だ。
 レキシントンへ接近していた15機の急降下爆撃機は途中で8機を撃墜させられつつも降下を続けた。
「爆弾投下!」
 合図と共に残っている7機が爆弾を投下する。しかし、1機は投下装置が故障したようで爆弾を投下できない。
 その急降下爆撃機は何を思ったか他の機が急上昇を開始しても機首を上げずに降下を続けた。その先にはレキシントンの艦橋がある。
 レキシントンの対空砲火はその機体を集中して撃つが翼や胴体に何発食らってもなお降下してくる。
「司令、敵爆撃機の1機、艦橋へ向けて突入してきます」
「なに!」
 第二任務部隊の司令はその方向を振り向く。そして彼の目に映ったものは視界を覆い尽くさんばかりに接近してきた爆撃機の大きな機体であった。
 艦橋は、航空機の搭載していた500kg爆弾の直撃を受けて原形を留めぬばかりに破壊された。かつて艦橋要員がいたところには突入してきた航空機や艦橋に備え付けの機械類の破片とつい一瞬前まで人間だったものの“破片”が散乱していた。
 他の戦艦を攻撃した爆撃機や攻撃機もありコンステーションは舵を損傷させられていたこともあり雷撃をかわせなかった。コンステーションは右舷前方と左舷後方に一発ずつ命中し急降下爆撃機が投下した500kg爆弾が三発命中した。すでに損傷を追っていたコンステーションには致命傷だった。
沈没にはいたらなかったが艦のいたるところから炎を上げ速力も数ノット代まで落ちてしまった。
 爆弾や魚雷を投下した機体もすぐには帰ろうとはせず、備え付けの機銃で艦に向けて銃撃を浴びせた。
 そして、その銃弾もつきかけた頃ようやく攻撃隊は母艦へと帰還して行った。
これにより第二任務部隊の指揮系統は麻痺してしまい、第二艦隊を追うという話しどころではなくなってしまった。しかし、攻撃隊も対空砲の被害を受け出撃機の半数近くを撃墜されてしまった。
とにかく、これにより第二艦隊は第一任務部隊を挟撃するチャンスをつかんだのである。

 攻撃隊が第二任務部隊を攻撃している最中も第二艦隊は第一任務部隊のいる方向へ航行し、ついに挟撃するコースへ着くことに成功した。
「アンハルト級は目標を敵サウス・ダコダ級にせよ。コロンビン級は敵コロラド級を目標にせよ。砲撃開始!」
 アンハルト級戦艦の七隻はサウス・ダコダ級に向け一斉に砲撃を始めた。

 第二任務部隊と第二艦隊が戦っている間にも第一艦隊は第一任務部隊に砲撃をし続け、大海計画艦はサウス・ダコダ級「モンタナ」「アイオワ」を撃沈することに成功していた。
旧式戦艦の二隻はやはりルヴィアゼリッタ合衆国の旧式戦艦部隊の十一隻と砲撃戦を演じ、相手の36p砲を上回る38p砲で「カリフォルニア」と「ミシシッピ」を撃沈し、「ニューメキシコ」を中破させていた。
 しかし、2対11と言う数の差はどうにもならず「エミルビア」は沈没してしまい、「シルヴィア」は機関に浸水して艦上に載っていた4基の主砲はことごとく潰され、海上に浮かぶただの鉄の塊となってしまった。
 そこへ第一任務部隊から離れて来た巡洋艦や駆逐艦がシルヴィアに雷砲撃を浴びせる。シルヴィアは残った副砲や機銃で応戦するが、射撃指揮装置を破壊され乗員の多数を死傷させられていたシルヴィアにこれらの攻撃を避けきることはできなかった。
 シルヴィアは魚雷を艦の中央部へまともにくらい、その爆発による爆風で生きているものそうでないものを問わずに海へと吹き飛ばされてしまった。
 そして、真っ二つに折れたシルヴィアは数分と経たずに深い海のそこへと沈んでいった。

「エトヴァス・ツヴィリンゲ大将。第二艦隊が到着しました」
「アリエ級戦艦の砲撃目標をコロラド級から旧式戦艦部隊に変更。これで、我々の勝利は間違いなしだ」
 第二艦隊が到着したことによって、17対18だった戦艦の数が17対28まで数が開いた。
「サウス・ダコダ級四番艦に三発命中。前部砲等使用不能の模様」
「コロラド級三番艦にも四発命中」
「ペンシルヴァニア級一番艦二発命中」
「ニューメキシコ級一番艦大破。戦列を離れていきます」
 隻数が増えたことは、砲弾の命中弾の数となって明確に現れてきた。
 このまま行けば、敵戦艦部隊を全滅させることも可能だ。そうエトヴァス大将は思い始めてていた。
 その時、エトヴァス大将の乗る戦艦の二つ後ろに位置するラバントに砲弾が命中してひときわ大きな爆発音が発せられた。
「艦長、我が艦の前方、後方に計六発の命中弾を浴びました。艦内に大量の海水が浸水しています」
「ただちに、浸水箇所の閉鎖処置をしろ」
「了解」
 艦の乗員は浸水箇所に急行し隔壁の閉鎖、浸水した海水の排水を必死にこなすが、艦に空いた大きな穴からは想像を絶する量の海水が流れ込んでおり海水の水圧に耐えられず隔壁は破壊されかろうじて隔壁を閉められたときには艦の大部分に浸水ていた」
「艦長、対応が間に合いません。このままでは、あと数分も立たずに沈没してしまいます。総員退艦命令を出したほうがよろしいと思います」
「分かった。各部署に退艦命令を出したまえ」
「了解しました」
「艦橋から各部署へ。総員退艦。繰り返す総員退艦」
 艦内は通常灯から非常灯へ変わり、緊急事態を示すサイレンが艦全体にけたたましく鳴り響いている。
 艦上に出た乗員から次々とボートに乗り海上へ脱出していく。しかし、ボートの大多数は戦闘により使用不能になっており乗員のほとんどはライフジャケットを身につけ、そのまま海上へ飛び込んでいった。

「エトヴァス大将。ラバントが壊滅的被害を受けました。沈没も時間の問題です」
「おのれ、大海計画艦を」
「エトヴァス大将、ペンシルヴァニア級一番艦が沈没しました」
「そうか、しかしダニエルズプランの戦艦はまだ半分以上も健在ではないか」
「ですが、ダニエルズプランの戦艦には今までに多数の命中弾を浴びせていますがなかなか頑丈で・・」
「泣き言は聞かん」
「申し訳ありません」

「エトヴァス大将、サウス・ダコダ級二番艦の撃沈に成功しました。コロラド級の四番艦も沈没させました」
「よし、この調子だ」
「しかし、砲弾が尽きかけています。現に何隻かは砲弾が尽きてしまったと言う連絡も受けています」
「では、砲弾が尽きるまでは砲撃を続けろ」

「サウス・ダコダ級六番艦撃沈」
 この戦いで十三隻目の戦果だった。しかし、セレバンテス帝国の猛攻もここまでだった。
「コールマン、残弾ゼロ」
「マテリアス、残弾ゼロ」
「巡洋戦艦部隊の残弾ゼロ」
「エトヴァス大将、ほとんどの艦の残弾がゼロになりました。もうそろそろ砲撃戦を止めにしませんと」
「うむ、残弾がないとなれば仕方ないな。攻撃中止命令を出したまえ。この海域から離脱するぞ」
「了解です」
「旗艦より全艦へ。攻撃中止、攻撃中止」

「シュタイナー大将、ワシントンが戦列から外れました」
「くそ、このまま全滅していくのを見ているしかないのか」
 しかし、そのときまで永遠と続いていたセレバンテス側の砲撃音が急に止んだ。
「どうした?」
「どうやら敵艦隊の砲弾が尽きたようです。敵艦隊は我が艦隊より遠ざかって行きます。我々にはまだ残弾が少しあります。追撃しますか?」
「それよりも生存者の捜索に移れ。戦艦はまた建造すればよいが、乗員の命は元には戻らないからな」
「了解しました」


 そうして、スバート海海戦は主力艦の撃沈数ではセレバンテス側の圧勝と言う形で終わった。
 ルヴィアゼリッタ側は出撃した戦艦のうち半数近くを喪失し、コロラド級はネームシップコロラドを残して撃沈もしくは大破の後、味方駆逐艦によって処分された。
 巡洋艦以下の被害も甚大で、重巡洋艦の内「インディアナポリス」「チェスター」「ルイスヴィル」「ニューオリンズ」「ミネアポリス」「ヴィンセンズ」が沈没。他に「アストリア」「ポートアイランド」が中破。軽巡洋艦は、三隻が撃沈。二隻が大破。四隻が小破した。
 駆逐艦も十五隻以上が沈没した。

 セレバンテス側は戦艦一隻、旧式戦艦二隻が沈没し、巡洋戦艦が一隻大破した後駆逐艦により処分された。
 空母は、「ノエリマース」「アシュフォード」「グレメス」「サンドラ」「セシルフォード」が沈没、又は駆逐艦によって処分された。

 重巡洋艦、軽巡洋艦合わせて20隻以上が撃沈し、駆逐艦も35隻が沈没した。

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