戦乙女が舞い降りた地で、

架空戦記
長編小説一作目、架空の世界を舞台にした戦争物の作品です。

第12話 ブルベリマルクは燃えているか!


 ルヴィアゼリッタ合衆国第一機動部隊、旗艦。
 
 空はどこまでも澄んでいて、雲はほとんどなく、日光を浴びた海がきらきらと輝いていた。
「平和ですね〜」
 男は、乗艦している空母の甲板から日光を手で遮りながら空を見上げて言った。胸にある階級章は少将で、この艦の参謀長であった。
 隣には参謀長よりも二つ階級が上の将官が立っていた。彼は、大将であることから分かるように空母機動部隊を指揮する立場にある司令官であった。胸には勲章がいくつもぶら下がり、軍服自体も参謀長のそれとは明らかに違う高級素材で作られており、司令官としてふさわしい装いであった。
 しかし、服装の様子とは打って変わって彼の表情は優れていなかった。それを象徴するように、参謀長の言葉が耳に到達しているはずなのに、まるでそれが聞こえないかのようにぼーっと煌く海面を眺めていた。
「平和ですね」
 参謀長は、反応がない司令官にもう一度問いかけた。
 司令官はそれにも全く反応せず、焦点の定まらない目で海を眺めるだけだった。
 そのとき、ちょうど彼らの上空を大型機の編隊が通った。
「あれは、確か陸軍航空軍の、だったか」
 初めて口を開いた司令官が参謀長に聞いた。
「陸軍航空軍は新型の重爆撃機を開発していると聞きます。それでしょう」
「陸軍は良いな、新型機を開発できるほどの予算があって」
 そこまで言うと司令官はまた黙ってしまった。
 海軍は、先のセレウベル海海戦で大敗したことから発言権が大きく下がり、それに合わせて割り振られる予算も減っていた。
 今、司令官をしている大将はセレウベル海海戦の際、副官の地位にあった人物で、当時の司令官が大統領その他の政府高官や議員に責任を問い詰められ、歓喜の声で送り出してくれた国民には罵声を浴びせられ、海戦の疲れを癒す間もなく辞任へと追い込まれていった。
 一度は彼を批判した人たちも去っていく後姿を見て同情してしまうほどの状態であった。
 それを大将はすぐ隣で見ていたのである。
 その後、副官から司令官へと昇格した彼であったが、海軍の災難はそれで終わりではなかった。
 予算が減ったことにより、新型艦の建造計画に遅れが出始め、既存の艦の改装作業も遅々として進んでいなかった。
 また、艦載機の更新もなかなか進まず、艦載戦闘機部隊では新型艦上戦闘機のF6Fヘルキャットが配備されるどころか、旧式化したF4Fワイルドキャットが今だに主力で、さらに旧式のF2Aブリュースターが配備されたままになっているところもあった。
 幸い、母艦となる空母は健在であったので機動部隊の規模は辛うじて維持できていたが、その実情はどの航空隊も定数未満の航空機しか配備されていないという散々な状態であった。
 定数近く配備されている航空隊は良いほうで、定数の半分を割り込む航空隊もあり、予備に置いてあった機体を使用したり、倉庫に長い間眠っていた旧式戦闘機を使用せざるを得ないところもあった。
 それに比べ、陸軍は新型機の開発を推し進め、主力重爆撃機であるB-17フライングフォートレスの5割を新型のB-29スーパーフォートレスへと交換し、さらに大型のB-33超重爆撃機フライングドミネーターの開発を強く推し進めていた。
 それら爆撃機が攻撃する場所、それはもちろんセレバンテス帝国の領土である。
 一度は消極的意見が大半を占めつつあった世論も霧城連邦皇国がセレバンテス帝国の艦隊を撃滅し、その戦力を激減させたことでルヴィアゼリッタも息を吹き返し、強硬論が再び世論の主流を占めるようになっていた。
 しかし、いくら航続距離を増やそうとも本国から直接爆撃するには距離が遠すぎた。そこで、ファメール皇国と密かに話し合いを進め、部隊のファメール皇国への移動を進めていた。
 ファメール皇国とセレバンテス帝国との間に横たわるのは数十キロ足らずの狭いベイル海峡のみであり、重爆撃機の積載能力を最大限利用できる格好の場所であった。
 セレバンテスもこの動きは掴んでおり、海峡方面への戦力の増強を急いでおり、二国間の間で大規模な航空戦が展開されるであろうことは容易に予想ができた。
 さらに、霧城連邦も新型高速重爆撃機と護衛戦闘機隊の配備を行い、近く、主力機動部隊も到着する。
 それにも関わらず、海軍には主力艦隊の派遣許可は下りないままだった。
 司令官は、隣にいる参謀長に目配せすると、艦橋の方向へ歩き始めた。そして、参謀長もそれに倣おうとしたとき、一人の士官が配達物の束を持って走ってきた。
「ウィリアム・キンケード大将、お届けものです」
 キンケード大将は、またかというような顔をして聞いた。
「今日は何通ラブレターが来たのかい?」
 士官は、何のことか理解できなくて何秒間かその場に立ち尽くしていたが、キンケード大将が何を言わんとしているかということに行き着き、口を開いた。
「全部で43通ありましてほとんど全てがその類かと…。しかし、一通だけ違うものがあります」
「ラブレターは、後で読むから私の部屋にでも届けておいてくれ。今はその一通だけ見せてくれ」
 士官は、束の中からその一通だけをキンケード大将に渡し、敬礼をして去って行った。
「どれどれ、ラブレターじゃないものとはなんだろうか」
 キンケード大将は、まず二通のうちかなり大きな封筒に手をかけた。大きさだけでなく差出人の欄から見ても通常の手紙出ないことは容易に想像できた。
 中を開けると、タイプライターで文字がびっしりと打たれた紙が二枚出てきた。
 それは、参謀本部からの艦隊派遣命令書であった。
 内容は要約すれば次のようなものだった。
『発、ルヴィアゼリッタ参謀本部 宛、第一機動部隊指揮官キンケード大将
 貴艦隊には、即刻、第一機動部隊をファメール皇国に向けて出航させるように命ずる。なお、受け入れ先は追って知らせる』
 キンケード大将は、自分の艦隊も作戦に参加できると分かって、先ほどよりは幾分顔色を良くして参謀長に問うた。
「参謀長、今我々の指揮下にいる艦艇はどれくらいかね?」
「はい、大型空母はエセックス級空母が4隻、ヨークタウン級が3隻の計7隻。中型空母は、新造艦のインデペンデンス級軽空母2隻を含む4隻です。あと、巡洋艦が9隻、駆逐艦42隻であります
 キンケード大将は、静かに頷くと訓練中の航空隊の収容と、出港準備を伝えるよう参謀長に言い、一度止めた歩を再び動かしていった。
 
 
★


 1943年、11月24日。セレバンテス帝国最北端の町、ブルベリマルク。
 
『その日、ブルベリマルクは、昼間だというのにまるで夜なのではないかと見間違うほどであった』
 これは、ある一兵士が戦後、手記に残した言葉である
 別名、鋼鉄の台風とまで言われた、大航空隊による爆撃の始まりである。
 ルヴィアゼリッタのB-29、B-17、霧城連邦の蒼陽重爆撃機、ファメール皇国のランカスター、一派だけで2000機にも上る重爆撃機が護衛機を伴ってセレバンテス帝国の海岸線にある基地を爆撃し始めた。
 また、中型爆撃機や小型の単発機、海軍機動部隊の艦載機までをも投入し、太陽の光を完全に遮ったのであった。
 それまでにも『定期便』といわれる小規模の爆撃は行われていたが、小競り合い程度のものでしかなかった。
 この攻撃に対し、セレバンテス帝国も果敢に抵抗を試みた。海岸付近に集結させていた航空戦力で爆撃機の迎撃に出たのである。単発の陸上機と艦上機型、そして、双発戦闘機やジェット戦闘機まで投入してきた。
 ジェット戦闘機は、大セレネバ帝国のターミガンに少し劣る性能であるが、レシプロ機と戦うには十分であった。
 しかし、いくらセレバンテス帝国が強大だろうと、二大国であるルヴィアゼリッタと霧城連邦、そしてファメール皇国の三カ国が相手では、航空戦力の不利は仕方なかった。
 セレバンテス帝国海軍は、海軍戦力が回復していないことから圧倒的不利な中の艦隊投入を見送り、哨戒任務のため軍港に停泊していた駆逐艦と水雷艇からなる小艦隊が戦闘に参加したのみだった。
 この海空軍の攻撃は三日三晩続き、セレバンテス帝国でも有数の基地があったブルベリマルクはどこもかしこも巨大な鍬で掘り返されたかのような状況になった。
 が、しかし、一方的な虐殺とも言えるこの戦いは、この後展開される作戦のほんの第一段階でしかなかったのである。ブルベリマルクが戦禍の火から開放されるのはさらに何週間も待たなければいけなかった。
 ベイル海峡の水中から水上、そして空の主導権も霧城連邦たちに握られ、彼らの上陸を未然に阻止する力は既に残されていなかったのである。
 総統は、ジェット戦闘機の集中配備を決定し、掻き集められるだけの戦力を当該戦域に急行させるように命令した。この命令の下、霧城連邦ら連合軍の戦力の倍以上に相当する陸、空軍戦力が移動していった。
 また、総統の『例えその身が朽ち果てようと、粉々に吹き飛ばされようと、一人たりとも敵兵士を通すことは許さん』という死守命令を受けた現地軍は、地上基地に併設された地下壕に立て篭もり、必ず来るであろう敵上陸部隊を迎え撃つ構えに入った。
 
 その夜、作戦は、四個空挺師団による夜間奇襲攻撃から始まった。これは、敵の背後に空挺師団を降下させることによって後方の拠点を確保し、敵の更なる増援をできうる限り遮断するというものであった。ただし、空挺師団は所詮歩兵に過ぎないので、機甲師団などと正面切って戦うには力不足である。
 夜明けしてすぐ、上陸戦の主力である部隊を乗せた揚陸艇が海岸の沿岸数十キロの地点に集合していた。背後には、戦艦その他の上陸支援用艦艇が控えており、そのさらに後方には大機動部隊が航空機の発艦準備を進めていた。
 そして、その時、9月28日午前6時、上陸支援のための艦砲射撃と艦載機による支援爆撃を合図に、無数の揚陸艇による大規模上陸作戦が開始された。

 

★

 1944年、1月19日 セレバンテス帝国の軍総司令部内の総統室
「なにをやっておるのだ! 我々が押されているではないか。何のために戦力を移動させているんだ。なんとしても敵を追い返し、海で彼らを溺れさせるのだ。一人残らずな」
 総統の罵声が鳴り響き、各軍の司令官はただただ彼の話を聞くしかできなかった。反論などもってのほかである。
「申し訳ありません。しかし、あと二日後には我が空軍の主力ジェット戦闘機部隊が到着いたします。また、製造を急がせていた新型戦車を擁する機甲師団も同日には到着する予定です。これらを主攻方面に立て、敵に短時間に猛烈な攻撃を加えれば戦況を打破できます」
「ふむ」
 司令官の説得にも全く耳を貸さない総統に辟易しながら早くこの時間が過ぎ去ることを祈る彼らであった。
「総統、総統閣下。朗報であります」
 ノックもせずに部屋に入ってきた白衣の男に総統が鋭い視線を向ける。
「何事であるか、シューペア」
 総統は、彼が近づいてくるのを目で追い、シューペアは意気揚々と書類を何枚も持って近づいた。
「はい、総統閣下。ついに、我々は例の新兵器の開発に成功しました」
 それを聞いた総統の顔に明らかな笑みが浮かんだ。
「そうか、良くやったぞ。威力はどれくらいだ?」
「はい、実験結果とそれを考慮した計算結果によりますと、爆心地から半径10キロメートル以内の生物を死滅させることができうる威力であるとの結果に行き着きました。半径三キロ以内の生物におきましては、その形状を保つことさえ不可能でしょう」
 シューペアは、書類を総統に手渡す。
「おぉ、これは…。ところで君、この新兵器は今すぐにでも使用できる状態かね?」
「い、今すぐにでありますか。実験に使用していない予備が一つありますが何分データが足りない以上今使うのは危険が伴うと考えます」
 そこで、司令官の一人が恐る恐る手を挙げた。
「あの、お聞きしたいのですが、その新兵器とは?」
 総統に尋ねた司令官であったが、答えたのは科学者であった。
「核分裂を利用した新型爆弾です。大きさは、全長3.4m、最大直径0.82m、総重量約6tです。総統閣下、どうしてもと仰るのであれば至急準備をさせますが」
 核爆弾を開発していた研究所のそばには、専用の飛行場があり、大型機の離発着も可能であった。
「空軍のほうで、大型爆撃機は今すぐ用意できるかね?」
 総統と科学者の話を黙って聞いていた空軍司令官は、突然の問いかけに驚きつつも口を開いた。
「はっ、総統閣下のご命令とあれば必ず用意いたします。しかし、どこに落とすのでありますか? 今現在、前線は敵味方が入り乱れており、ここで使えば必ず味方にも被害が出ます」
 そのとき、総統に怪しい笑みが浮かんだのをシューペアは見逃さなかった。
「ふんっ、おぬしらは、何を恐れておる。たとえそれで味方を巻き込んでしまったとしてもその何倍もの敵を道連れにできるのだ。我が軍の兵士としてこれ以上の名誉はないだろう。しかし、我が高貴なる血を持つ民族の兵士を犠牲するのは躊躇われる。そこで、新型爆弾の投下は最右翼の第56歩兵師団が敵と交戦している地点で行うことにする。彼らは、各地で捕虜にした下等な民族であり、このような場合には打ってつけだ。彼らには不幸だが、強制収容所で最期を迎えないだけ幸運だと思うしかあるまい」
 その場にいた司令官たちは、総統の言葉に戦慄を覚え、改めて総統の冷酷さを認識した。そして、彼の言う高貴なる血を持つ民族に生まれたということに安堵したのであった。
「我がセレバンテス帝国は、ついに敵を一撃の下に粉砕できる新兵器を手に入れたのである。これがあれば神をも恐れる必要はなかろう。いや、我は神の力を手に入れたのである。その神聖なる神に楯突こうという愚か者を叩き潰し、制裁を与えるのである」
 このとき、世界史上初めての核兵器使用という一ページが刻まれることが決定し、彼ら歩兵師団の運命も決したのであった。


 核兵器研究所に併設された飛行場
 
 真新しい四発の大型機がうなりをあげ、今まさに滑走路を滑り出そうとしていた。
 腹にある大きな爆弾搭載用スペースには一発の新型爆弾が搭載されいた。四発の大型機でさえ六トンにも上る新型爆弾の搭載は可載重量のぎりぎりであり、整備員が各部分の点検を行っていた。
「整備員、点検はまだ終わらんのか。総統閣下には、一秒でも早く離陸させるように厳命されておるのだ」
 航空隊司令が整備員に作業を急がせるように催促する。
「そんなこと言われましても、この爆撃機はまだ試作段階で調整がまだなんですよ」
 そう、核爆弾が搭載されているこの爆撃機は大量の爆弾を搭載し、敵陣地を空爆するための新型爆撃機として開発が進められていたもので、まだ最初の試作機が完成して一ヶ月しかたっていなかったのである。
「そんなことは今の私には関係ない。どんな事情があったとしても総統閣下の命令は絶対だ。どうだって良い、飛べる状態にさえなればいいんだ」
 整備員は、他の作業を中断して非番の要員も召集して調整の完遂を急いだ。
 彼らの必死の努力により、調整は十分ほどで終了し、航空隊司令へと伝えられた。
「燃料準備よし、各種装置異常なし、管制塔へ離陸許可を要請する」
 機内には、機長のほか副操縦主、機銃主、整備員、核兵器に関する科学者が搭乗し、管制塔から来る離陸許可の通信を待った。
「こちら管制塔。天候異常なし、滑走路も異常ない。離陸を許可する。空軍司令部より伝達、第2航空軍より護衛戦闘機が付くことになったそうだ。コールサインは、シュバルツエルザだ」
「了解した」
 管制塔から許可が出たと同時にスロットルを最大まであげ、ゆっくりと滑走路を滑り出した。四基の大馬力エンジンがその巨体を力強く引っ張り、ぐんぐん速度を上げていく。滑走路脇には作業が終わった要員が並んでいて、みんな手を振ったりしながら歓声を上げていた。
 四発の爆撃機は、滑走路の終端ぎりぎりで機首を持ち上げ、上昇を開始した。向かうは、セレバンテス帝国陸軍と霧城連邦、ルヴィアゼリッタ合衆国軍を中核とする連合軍が激しく交戦を繰り広げる最前線である。
 
 
 1時間後、セレバンテス帝国陸軍第56歩兵師団司令部
 
 第56歩兵師団は、何倍にも及ぶ敵陸上部隊と死闘を繰り広げていた。戦闘初期は、地の利を生かしての機動戦で優勢に戦いを進めていたが、後から加わってきたルヴィアゼリッタ合衆国陸軍の二個機甲師団、四個歩兵師団、霧城連邦陸軍の一個機甲師団、二個歩兵師団が戦いに加わったことで戦いの流れが変わり、防戦一方の戦いを強いられるようになってしまったのである。
 また、敵は圧倒的な機数の航空戦力の支援の下攻撃を行っており、戦況は悪くなる一方だった。
「第三大隊から通信途絶、第二大隊から武器弾薬が底をつきつつあり、補給を至急頼むとのことです」
「第五大隊の一部を左翼に展開し、敵の進出を食い止めろ。空軍に支援を要請」
 師団司令は、既に敗退は避けられないと思いつつも死守命令によって退けない状態であった。
「空軍には、先ほどから支援を要請しておりますが、現状の戦力で対応せよとのことです」
「それが無理だから支援と頼むといっているのだ。もう一度要請しろ」
 彼の指揮下にいる兵士は、捕虜になった者から構成されているため、厄介者扱いされて支援をあまりもらえないことは分かっていたがこれほどとは司令官も思わなかった。彼らの部隊が守っている戦線を適に突破されてしまえば薄い後方を進撃され、違う部隊が挟撃されてしまうかもしれないのだ。そうなってしまえば、ここ一帯の部隊は皆やられてしまう。
「司令、空軍より通信です。我が戦線を支援するために特殊爆弾による爆撃が行われるとのことです。そのため、爆撃機が到着するまでの間戦線を維持せよと」
 ついに自分の部隊にも支援がやってきたか。そう司令官は思い、予備の部隊も投入して総攻撃をかけるように命令を下した。
 予備の戦力も投入した味方部隊は、一時的に息を吹き返し敵部隊の一部を打ち破ってその後方へと回り込むことに成功した。そこに、砲兵隊が集中砲火を浴びせて敗走させる。ここで味方の爆撃機が到着すれば戦局を打開できるはずだ。
「司令! 味方の急降下爆撃機です」
 司令官が空を見上げると、戦闘機に護衛された急降下爆撃機の群れが敵陣地の方向に飛んでいくのが見えた。
「どういう風の吹き回しだ。先までは一機の航空機もよこさなかったじゃないか」
 司令官は、あまりにも違う対応に不安さえ覚えた。そして、彼の不安は最悪の結果として彼に返ってくるのであった。
 空軍司令部には総司令部から第56歩兵師団が戦っている前線付近の敵部隊を混乱させ、そこに足止めさせて置くように命令されていたからである。

 彼らが敵部隊を押さえつけている間に、空軍の戦闘機にかわるがわる護衛されてきた大型爆撃機では投下される新型爆弾の最終調整を行っていた。
 まだ、実験データが不足している核爆弾では何が起こるかわからないことから、科学技術者と整備員は投下地点に近づいてから火薬の挿入を行うことにしていたのである。これで、神の力をも発揮できる恐怖の兵器へと変貌するのであった。
 だが、科学技術者のほかにこの爆弾の本当の効果と威力について知らされているものは圧倒的に少なく、搭乗員でさえもこれが恐ろしい威力を持つ核爆弾であると走らされていなかったのである。
 彼らが作業している間にも敵との距離が縮まり、戦闘機部隊の半分が離脱する時間となった。爆撃時は、高高度に上昇して投下するので、通常の戦闘機が付いてこられないためである。残った戦闘機隊は、高高度飛行能力を備えた戦闘機であり、このために各戦場から集められたものであった。
「護衛戦闘機隊、二個小隊を残して離脱しました。これより爆撃高度まで上昇を始めます」
 高度が爆撃高度に近づくにつれ、爆撃予定地点へどんどん近づき、下からは敵部隊の対空射撃が始まった。これは爆撃機のはるか低空でむなしく砲弾を爆発させるだけだった。
 これに続き、敵戦闘機部隊の攻撃が続いた。敵戦闘機部隊は、エンジンから金切り声をあげながら上昇を続け爆撃機を撃墜しようと肉薄してきた。
 しかし、これも予想の範囲内である。爆撃機は自身の装備する機銃でけん制射を行い、護衛の戦闘機が敵を叩き落した。
「爆撃予定地点まであと1分」
 このときまでには核爆弾は投下準備を整え終えており、投下命令を待つのみであった。
「爆撃予定地点まで、あと30秒。カウントダウンに入ります」
「爆弾投下扉を開け!」
 機長の命令とともに機体下部の爆弾投下用ハッチが開かれ、爆弾格納庫内に風が入ってきた。
「こちら、爆弾格納庫。ハッチ異常なし。いつでも投下できます」
「8,7,6,5,4,3,2,1…」
「投下!!」
 核爆弾を機体に固定していた留め具が外れ、いよいよ死の兵器が効果を発揮するときが来たのである。爆撃機とその護衛戦闘機部隊は、核爆弾の爆風から逃れるため急旋回に入った。爆撃機は、6トンもある爆弾が急になくなって一瞬バランスを崩しかけたが、すぐに姿勢を整えて旋回を始めた。
 核爆弾は、地上を進撃中の敵部隊に真上から襲い掛かっていった。投下された爆弾が一発だけだったことから周辺の部隊へ退避命令が出されたほかは散発的な対空射撃しか行われず、それが6トンという巨大な爆弾であることに気づいたときにはもう手遅れであった。
 地獄へのカウントダウンを続けていた爆弾内部の高度計が事前に決められた高度を指し示し、高度計に対応して爆薬が爆発を起こした。これによって内部のウランの核分裂を引き起こし、死の光が敵部隊に襲い掛かった。
 直下にいた機甲師団では、戦車の周りにいた兵士に致命傷の打撃を与え、次々と命を奪っていった。また、戦車の装甲をコンロの火で熱したフライパンのように高温の状態にし、中にいた乗員までも焼いたのである。ついで彼らに襲い掛かった爆風は、大破した兵員トラックを吹き飛ばし、熱線にやられなかった兵士を殺傷した。
 全身を溶かしつくされた兵士はまだ幸運であった。付近には、ケロイド状になった皮膚を垂らし、まるで生ける屍のような唸り声を上げてさまよう兵士や溶けた皮膚が金属板に癒着し、剥がれなくなってしまった兵士。味方戦闘車両の下敷きになったり、ぱっくりと開いた傷口から大量の血が噴出していて虫の息の兵士もいた。
 上陸作戦時に展開された地獄絵図とはまた違う地獄絵図が作られ、傷らしい傷を負っていなかった兵士は惨状をただ呆然と見つめた。その兵士の頭上には、容赦なくセレバンテス帝国の砲弾が降り注ぎ、さらに混乱が広がった。
 現時点でなんともないと思われた兵士も放射能の被爆という死の時限爆弾を背負わされることになっていたのであるが、それに気づくものは誰もいなかった。

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