戦乙女が舞い降りた地で、

架空戦記
長編小説一作目、架空の世界を舞台にした戦争物の作品です。

第1話 時は、1942年


 時はさかのぼって1942年10月1日未明、場所は同じセレウベル海。
 彼の愛機は、中型輸送機の九七式輸送機だ。旧式だがその操作性は良好でなおかつ多くの物資を多く運べるとあっていまだに重宝されている。
 その彼の愛機が飛んでいる海上はいま濃い霧で満たされている。
 旧式機とはいえ、洋上飛行用のレーダーなどの計器類を装備しており霧ぐらいでは何の問題もない。
(しかし、今日はいやに霧が濃いなあ、こんな霧は今まで見たことがない。なんだかいやな予感がする)
 彼がそう思っていると、隣に座っていた桜少尉が彼の顔を見てそのことを察したようでまじまじと顔を見ながら言った。
「佐原機長どうしました?霧がこんなに濃いんでいやな予感がするとか思ってたんですか?」
 まさにその通りだった。佐原は思ったことがすぐ顔に出てしまう体質らしい。これは良いのか悪いのか。
「まあ、そんなところだ」
 佐原がまるでやる気のないような声で言ったので少し怒ったような口調で
「でも、霧なんてこのへんは良く出るんじゃないですか?」と言った。
「しかし、こんなに濃いのは初めてだ。なあ、そうは思わんか河貴」
 河貴曹長は新任の桜少尉と違って空軍士官学校時代からの友人だ。
「そうですね、私も初めてだと思います」
「まあ、しかし私の高度な操縦テクニックがあればどんな天気の中でも楽勝だがな」
 そう言うと桜少尉が呆れたような顔をして
「はい、そうですか。それは良かったですね」っと、あっさり言った。
「そうだよ、はっはっはー」
 佐原は、わざとらしく言ってみた。
 桜少尉は「ああ、そうですか」ともう一回言い黙ってしまった。
 なんだかつれない奴だ。そう佐原は思った。
 その霧だが数分も経つと跡形もなく消えてしまった。
 そのときだった河貴がレーダーを見て急に真剣な表情になり佐原のほうを振り向いたのは。
「佐原機長、この辺に大型艦艇って通る予定ありました?」
「いや、そんなことは聞いていないがどうしたんだ」
「レーダーに戦艦らしき艦影が映ってるんです。それならおかしいですね」
「それはどこなんだ?」
「今、我々がいる前方の海上です」
 それを聞いて前方を見た桜少尉が佐原の方を見て言った。
「佐原機長、本当にいます。いま、望遠鏡で見てます。あっ、あれは!」
「何だ、桜少尉はっきり言え」
「あれは、紫花級戦艦です。それに我が国の国旗もついています」
「一応、海軍本部に問い合わせろ」
「了解です」
 桜少尉は無線で通信をする。答えはすぐに返ってきた。
「そのような、大型艦艇は航行していないはずだそうです」
「その戦艦に聞け、どこのどいつの艦だと」
 桜少尉はすぐに通信をする。
「こちらは第四十五輸送機隊所属、九七式輸送機の桜少尉です。セレウベル海を紀伊軍港に向けて航行 中の戦艦に告ぐ。貴艦の所属と艦名を至急知らせ」
 そう言うとすぐに通信が返ってきた。
「こちらは、紫花級戦艦の五番艦「伊瀬」の副艦長近藤延丈中佐である。我々は紀伊軍港に着き次第、 第一艦隊に編入される予定なり」
 佐原は、その副艦長に言った。
「なに寝ぼけたこと言ってるんだ。紫花級の五番艦?まだ、二番艦が竣工したばかりなのにそんなことあるわけないだろうが」
 すると、また通信を返してきた。
「五番艦は2017年の5月に竣工したが知らないのか?それに、貴公の輸送機は半世紀以上も前に退役したはずだが。今は、ジェット機がほとんどのはずだが」
 佐原は、ますます怒った。ジェット機?何だそれは、そういえば開発中の新型戦闘機にそんなものがあったような気がする。
「なに言ってんだ、ジェット機なんてまだ実用化さえなってないぞ。それよりもなんだ2017年って、今は1942年10月1日だぞ」
「佐原機長、巡洋艦「摩耶」から入電です。我、貴殿の発見ざる戦艦を臨検する予定なり貴殿は紀伊軍港に向かうべし。です」
「了解したと伝えてくれ」
 佐原はその戦艦をずっと見ていたい気持ちであった。だが、自分たちは輸送任務の途中であったので仕方がない。そう判断し佐原は機体を紀伊軍港へ向けた。
 戦艦「伊瀬」の周りに十数隻の艦船が集まってきているのが見えた。それらのほとんどは沿岸警備隊の小型艦艇だったが、先ほど電信を打ってきた巡洋艦「摩耶」の他に駆逐艦も何隻か来ていた。

 その戦艦「伊瀬」の艦橋内。艦長に変わり艦橋任務をしていた副艦長の近藤延丈中佐は動揺していた。
 今、霧城連邦皇国の第八戦隊の指揮官リオン・ミリー少将だと名乗るものが即刻停船しこれから行う臨検をおとなしく受けるようにと何回も打電してきている。近藤が動揺している理由はその少将が言っていることであり、先に輸送機の搭乗員に言われた事だった。
 だが、そんなことはありえない。摩耶なんて巡洋艦は連邦艦隊には存在しないし、まさかさっきの輸送機の男が言っていた1942年当時に存在した重巡洋艦「摩耶」であるわけがない。なぜ後数時間後には第一艦隊に編入される予定の「伊瀬」が臨検など受けなければならないのか近藤には全く理解できなかった。
 それに加えて近藤をさらに動揺させる出来事が起こった。艦橋内では通信員が海軍本部に通信を試みたがどうやら海軍本部も同じ事を言ってきている。そんな戦艦など存在しないというのだ。近藤は夢でも見ているのではないかと思ったが頬をつねってみると痛かったので夢ではないらしい。
 その時、先ほどまで仮眠をしていた艦長の羅山信義大佐が何事かという顔をして艦橋に入ってきた。彼は、艦橋に入るなり艦長席に座るまでもなく大声で「どうした、何があったんだ?」と聞いてきた。彼には呼び出したときにすでに事情は説明していたが近藤と同様にあまりの出来事に状況を理解できていないようだ。
 そうこうしているうちに、10数隻の艦艇が「伊瀬」の周りに集まってきた。それらの艦艇は旧式のばかりであった。軍事博物館に飾ってあるミニチュアがそのまま目の前に現れたかのようだ。その中でも一番大きい艦艇(おそらく巡洋艦「摩耶」だろう)が「伊瀬」に横付けした。
「こちらは、リオン・ミリー少将である。今から、貴艦の臨検を始める。なお、少しでも不審な行動をとった場合は撃沈も辞さないことを了承されたし」
 艦長は仕方がないといった表情で言った。
「全艦に通信を繋いでくれ。」
 通信員がすばやく操作をする。そして通信員がうなずくと艦長は話し始めた。
「私は、いまもこれは何かの夢ではないかと思っている。しかし、海軍本部も同じ事を言っている以上私たちは本当に1942年にタイムスリップしてしまったのかもしれない。みなも、行動には注意するように」
 そこへ一人の将官が士官1人と4,5人の銃を持った兵士を引き連れて艦橋に入ってきた。
その将官を見て近藤ははっとした。なぜなら、その女性は第二次世界大戦時に第八戦隊を指揮し戦後は海軍次官も経験したあの「リオン・ミリー」少将まさにそのひとだったのだ。
 彼女の写真は見たことがあったがそれは60を過ぎた辺りのものであり今の彼女はおそらく40歳くらいであろう。かなりの美人だ。
「貴艦は、本当はどこの国籍艦か?真実を述べよ。これ以上嘘を突き通すつもりならどうなるか分かっているな?」
「だから、さきほどからずっと言っているではありませんか。この戦艦「伊瀬」は2017年の五月一日に第一艦隊に編入される予定だと」
 艦長は先ほどとはうってかわって落ち着いた表情で言った。近藤も自分のできる精一杯の力で動揺を隠し、冷静を装った。が、どうしてもぎこちない感じになってしまう。
これが、年齢の差だろうか。
「では、その証拠を出せ。2017年の人間だという証拠を!」
 近藤は、艦長にある提案をした。すると艦長は頷づいた。
「では、その証拠を見せましょう。私たちが2017年の人間だということを。さあどうぞ」
 近藤は扉のほうを手で示すと艦橋の外へ出るように促した。少将と士官1人は近藤と一緒に出て行ったが兵士はそのまま艦橋に残った。
 リオンと士官が艦橋の外に出ると、近藤が先に立って歩き出す。所々にいるリオンの部下であろう兵士がリオンのほうに敬礼をする。彼女もそれに返す。そして、いくつか目の角を曲がったとき近藤は近くの青色の扉を開けると中を手で示して「ここは図書館です。先にどうぞ。レディーファーストですから」と言って中に入るように促す。
 リオンは特に顔色を変えなかったが、隣にいた士官は近藤が発した言葉に眉をひそめて近藤のほうを見ていた。
 リオンは一緒に来た士官に部屋の前で待っているように命令すると、自分は部屋の中に入った。

 リオンが部屋の中に入るとそこには本が一冊もなかった。あったのは壁に埋め込まれているガラスと多くの機械類であった。後は簡単な椅子が何脚かあるだけだった。中には自分の知っているタイプライターのような「A」などのアルファベットや数字などが配置されたものがあったが他の機械はリオンにとっては見たこともないものばかりだった。
「では、そこにある椅子に座ってください。今からその証拠というものをお見せいたします」
 リオンが近くにあった椅子に座ると壁に埋め込まれたガラスが明るくなった。なるほど、スクリーンか。しかし、どこに映写機があるのかとリオンは思ったがどこにもそれは見つからなかった。
そして、そのスクリーンから映像が流れ始めた。
「1942年、10月8日未明のわが海軍の機動部隊がセレバンテス帝国の艦隊に航空攻撃を加えたときからこの戦争は始まりました」
 最初は画面には文字しか映っていなかったが、その言葉の後に味方の戦闘機や攻撃機が敵の艦隊を攻撃する映像が流れた。その映像に映っていたものはまさに我が軍の兵器だった。
「この戦争はセレバンテスなどの帝国主義国が領土拡大のためにはじめた戦争がきっかけでした。セレバンテス帝国はその六年前、国際連盟からの脱退を急遽表明。一年後の軍縮条約の失効を待って大幅な軍拡を始めました。そして、1939年9月に第二次世界大戦が始まりました。しかし、我が国は中立を宣言しており最初は参戦するつもりではありませんでした。しかし、セレバンテス帝国の同盟国、大セレネバ帝国が我が同盟国のリッシュメル王国の基地を航空攻撃し同じ基地に駐留中の我が海軍も合わせて空母一隻が大破、一隻が中破、巡洋艦と駆逐艦を合わせて六隻撃沈され、十隻以上が大破するという甚大な被害を受けました。このときになって我が国は同盟条約にのっとり同盟国の防衛、そして我が国に戦火が及ばないようにセレバンテスやその同盟国に10月8日未明宣戦布告をしました。我が軍の航空機部隊は敵の艦隊を全滅させるほどの戦果を挙げましたが敵も猛反撃をして両国は大損害を受けました。・・・・・・そして、五年間の戦争の後我が国とその同盟国は戦争に勝利することはできましたが死者だけで100万人を超えるという凄惨なものになってしまいました。その後世界の各国は国際連盟に変わる国際連合を組織して・・・・」
 そのビデオを見てリオンは言葉を失った。なぜなら、リッシュメル王国の海軍を攻撃したことは周知の事実であるが、我が海軍の詳しい損害はまだ機密にしていてまだ誰も知らないはずだ。それに、我が軍はまさにそのビデオのとおり10月8日に戦争を始めるために着々と準備を進めていたのだ。また、このビデオは到底作り物には見えなかった。
「これは本当のことなのですか・・・」
「はい、これから起こる出来事です。しかし、我々がここにいる以上そのとおりになるとは限りませんが。その映像のとおりなら貴女は戦後海軍次官まで上り詰めます。その映像もありますが見ますか?」
「え、そんな映像もあるのですか?」
「はい、貴女は女性として初めて海軍次官になった人として特集映像が作られています」
「まあ、それは後で見ることにしてあなたがたはこれからどうするおつもりですか?」
「それでは、錨を下ろせる港をご用意していただけませんか?このまま、海上を漂っているわけにはいけませんし」
「私には、そこまでの権限はありません。しかし、皇王に掛け合ってみましょう。どうにかなるかもしれません」
「ありがとうございます。貴女が話のお分かりになる方でよかった」
「いえ、それよりも皇王に掛け合うときに貴方も同席していただけませんか?」
「ええ、もちろんですとも。私もそうしたいと考えておりました。では、艦載機のヘリで行きましょう」
「ヘリ?ですか。それはどんなものですか?」
「ヘリとは垂直に離着陸ができる飛行機だと考えてもらえればよいと思います」
「それは便利な代物ですね。では、私は許可を取ってまいります」
 リオンは一回廊下に出ると近くにいた部下の士官を呼び一緒に走っていった。
 近藤は、部屋の中でリオンが帰ってくるのを待った。

 リオンはもうすぐ十分が経とうとしていたとき、士官と一緒に帰ってきた。
「皇王には、先ほど許可を得ることができました」
「それは良かった、では艦長に報告します」
 近藤はすぐに部屋に備え付けられている通信機で艦橋にいる艦長に許可を求めた。艦長はすぐに許可を出す。
「私もそうしてほしいと思っていたところだ。では、艦は参謀長に任せて皇王に会いに行くことにしよう。私は今から格納庫に行くから君は先に行ってくれ」
「了解しました」
 近藤は通信を切るとリオン少将を格納庫に案内した。

「ここが格納庫です。そのヘリですが我が艦には4機積んでいます。では、あの1番機と書かれているものに乗り込みます」
 近藤とリオンがヘリに乗り込んで少し経ったとき艦長が格納庫に入ってきた。彼はすぐに近藤たちの乗っているヘリを見つけると近寄ってきた。
「近藤君、リオン少将、遅くなってすまない。では行くとしましょう」

小説についてのアンケート
ウェブ拍手、ウェブアンケートを設置しております。拍手だけでも頂けると泣いて喜びます^^