サイドストーリー「充実した空白 〜烈女の長期休暇〜」

架空戦記
同人誌のキャラクター「五十嵐千鶴」を主役にしたサイドストーリー「充実した空白」です。

第九話:お客様


第九話:お客様

 鹵獲したジープや武器などは丁寧な手入れを行ってから、寺の財産として大事に扱われる。武器は禁制だが、持ち込まれてしまったものは仕方がない、厳重に管理されている。これまで結構な北夜の兵隊が寺の山に入ってきては、お土産を置いていってくれていた様だ。ライフルが五十丁、小銃が七十丁、弾薬も多数取り揃えている。さらにジープ三台に、軍用バイクも三台、ちょっとした武装集団と言ってもよい。とはいっても、協定地域に入ってきたお客さんに使うことは控えている。「殺生禁忌」の建前を大事にする方針なのだろう。

 五十嵐が寺に来てから五ヶ月、その間にお客さんを十五回ほどお迎えしてはお土産をいただいていた。もっぱらチェンたちが迷い込んだ兵士を捕まえては、力ずくで武装解除した後、協定地域の境界に設けられた小屋に放り込む。リーメイ・ミーメイと五十嵐の三人組だけで狩ったことも、五回ほどあった。

 戦車クラスの重兵器を含んだ師団レベルでの派兵はされていないが、五十嵐が来てからお客さんの来訪頻度が増えているとのこと。もしかしたら、わたしを探しているのかしら? ちょっと寺の皆さんは迷惑かしら?と心配になる。
 ミーメイは「チズが来てから、『お客さん』増えた、楽しい」と屈託がない。マオ以下長老格の連中も、むしろ喜んでいる様だ。寺の武芸演習にも師範格として参加し、新しい技を憶えたり、若い子に技を教えたりして、それなり充実した日々を過ごしている。

 ある日、お客さんの対応をしたチェンが紙の束を持ってきた。北夜軍事警察の発行している指名手配の張り紙だ。如何にも凶悪・凶暴そうな表情で銃を持っているパーマ頭の女と、その両脇に十歳くらいの女の子が描かれている。「ファメール鬼女」「五十鬼子」「賞金十万元」などの文字が踊っている。
「え?もしかして、これ、わたし?」パーマ頭以外はあまり共通点がなさそうなのだが、たぶん、五十嵐のことだろう。「北夜が血眼で探している様ですね、ポーやリーも指名手配を食らっていますが、賞金は三万元と五万元ですから」とチェンは微笑んでいる。「この横のふたりは、きっとリーメイちゃんたちね。こっちは可愛く描いているのに、随分だわ」と五十嵐が愚痴る。

「破格の賞金額で、さすがチズさんだ、と、みんな言ってます」
「そうねえ、賞金の内、八万元分くらいは、ファメールの大尉の分ね─── こんなところで賞金首になるとは…… はあ、どうしたものか……」

        *********

 パーマ女の賞金付き指名手配書を見ながら鈴原少佐が、深い溜息をつく。
「はあ、どうしたものか……」

「位置的に半島の根本、北夜と華魅の境目の山奥ねえ、救援隊を出そうにも遠すぎるし、危険すぎるわね」と指名手配書を持ってきた水嶋と初瀬櫻の前で鈴原は溜息を隠そうとすらしない。

「でも、よかったですわ」櫻のつぶやきに驚く鈴原。「え?良かった?こんな敵の奥深くなのよ」鈴原が櫻を咎める様に言う。「ええ、だって、これが発行されているってことは、五十嵐大尉、無事だってことですよね。 それに、なんか大活躍していらっしゃるみたいだし。お元気そうです。それでしたら、それはよろしいことだと思います」と屈託なく答える櫻。「しかし、五十嵐大尉が、我々の手の届かないところにいらっしゃることが判ったのは、よろしいことではないと思わないかい?」と水嶋がやんわりと窘める。
「偵察にも入れない様な奥地なのよねえ。せめて海側にでも出てきて貰えたら強襲揚陸艦からヘリで救助も出来るのに」と地図を眺める鈴原。

 強襲揚陸艦からの離発着は小型のヘリでないと難しい。現在、単座式の小型ヘリで構成されている偵察隊が北夜と華魅の境界沖で展開され、海岸線までは偵察が行われてはいる。しかし、敵ジェット機等に追いまくられていて、陸地内部への偵察は抑えこまれている状況だ。

 敵の動き、とくに華魅と霧城からの兵力の移動状況が、精密には掴めていないため、迂闊に手を出せない。それは北夜側も同じなのだろう、膠着状態となっている。璃と北夜の間の前線にお互い戦力を集中してはいるが、大々的な戦闘はこの二ヶ月発生していない。

「レムセーさんの隊も、なかなか苦労している様だし」と、五十嵐の元同僚が隊長を勤める偵察ヘリ小隊が展開している海域を、ぼんやりと眺める三人。

        *********

「ハックショ」…… 誰かに噂されているのかしら?と第六ヘリ偵察小隊の隊長レムセー中尉。北夜の半島の根本、漁港らしき村落を遠巻きに偵察して、北夜軍が展開もしていない事を確認しながら、部下たちの散開偵察任務を見守る。

 海岸から十キロ程度で目視探査と電磁波探査をして、敵らしきものがなければ海岸線あたりまでは偵察の足を伸ばすが、そこまでだ。あまり踏み込むと、敵ジェット戦闘機の餌食になる危険が高く、戦車・自走砲といった伏兵もやっかいだ。なにしろ、軽量高速だけを取り柄としている単座ヘリだ、ジェット戦闘機に太刀打ちは無駄だし、戦車砲弾の近接爆発でも簡単に撃破されてしまう。武器といっても十二ミリ機銃のみで、硬い装甲を持つ戦車相手には何の役にもたたない。

「隊長ぉ、敵兵、いないみたいなのぉ、少し奥まで行ってみるの」と五番機のミネルヴァの眠そうな声の報告がくる。「レメーシュ曹長、ミネルヴァの援護と周囲索敵をお願いね、ミネルヴァ軍曹、くれぐれも深入りしないでね。ここは比較的軍備が少ない地域ですけど、ここでわたしたちに向けられているのは、悪意と敵意ですからね」

「はい!」と途端に元気付いたミネルヴァの声とともに、五番機が前傾加速して半島の漁村の上を通りすぎていく。あわててレメーシュの操るヘリが上空に機動展開してミネルヴァ機の周辺を確認する。漁村のすぐ奥は、小高い山が連なっている。ほとんどハゲ山に近いが、樹木で覆われているところもある。樹木に隠れた敵をあぶり出すのも偵察の目的ではあるが、伏兵という危険が伴う。

「この程度の森だったら、隠せてもせいぜい自走砲くらいかな?」と高度を下げて車の轍などがないか? を検分するミネルヴァ。目の良さは、さすがガバメトスの海育ちだけあって、三百メートル上空からでも車の轍を見分ける程度はたやすい。

「あれ?軽車両の轍がありますの」と目ざとくみつける。「本格的重量のある車両の轍は見当たらないの」と報告して引き上げようとするミネルヴァ機。帰路につこうと機首を展開しようとした矢先、ミネルヴァ機の下腹からカツンカツンと打撃音がする。
 振り返って見ると、敵兵がライフルで撃ってきているのが見える。「わたしのストラビオーリの誇り号に傷つけたのね。わかったの、その喧嘩、買ってさしあげますの」ミネルヴァは機首を戻し、急降下しつつ敵兵に迫る。
「戻りなさい、ミネルヴァ、敵の数がわからない」
「わからないから探ります。それは偵察隊のお仕事です── 見えました、ジープ一台に敵兵四、ロケット弾などは装備していません。十二ミリで充分ですの」とレメーシュ曹長の指示を無視して地上スレスレに機動する五号機。横方向に機動、森の木々を縫う様にして進み、敵ジープとの距離を四百メートル程度まで接近しつつ、トリガーを押す。

ガガガガガガ、分間千五百発の小気味良い発射音を十分の一秒。

 敵のジープが跡形もなく粉砕され、弾薬も載せていたのであろう、爆発炎上する。周囲にいた兵も沈黙した様だ。四百メートルのやや遠方からの射撃だが、ミネルヴァにとっては簡単な部類に入るゲームだった。「はやく戻りなさい!」とレメーシュ曹長の怒鳴り声に「あ、終わりましたの」と意気消沈しつつ、小隊の隊列に戻るミネルヴァ。

「また、今夜もお説教なのお── はあ、どうしたものなのぉ……」