サイドストーリー「充実した空白 〜烈女の長期休暇〜」

架空戦記
同人誌のキャラクター「五十嵐千鶴」を主役にしたサイドストーリー「充実した空白」です。

第十一話:漁村



第十一話:漁村

 夜八時頃、第一陣を漁村に送り届けた三台のトラックが帰還した。残っていた四十人と武器、そして、残った貴重品類を積んで、山寺の門の下で待機。二隻目の船の目処もたったこと、最初の船に乗り込むための漁船も数隻、漁村の助力もあって調達できたこと、などの報せがもたらせる。

 寺の山門の前で別れを惜しむ老人たち。しばし黙祷のあと、マオが顔をあげて「さて、出発じゃ。紅湾での生活が待っている。多少の田畑もあるので、当面は困らないだろうな」すこし寂しそうだが、吹っ切れている様にも見える。

 ゆっくりと走りだす三台のトラック、その後を三台のバイクが続く。舗装もない山道で、ガタガタ揺れるが、疲れのせいか双子や老人たちが寝入ってしまう。双子の表情に微笑みかけているうちに、五十嵐も。

 運転手の交代や燃料給油のための短い停止以外、トラックの一団は夜通し走る。バイクも乗員の交代などがあるが、索敵がてらトラックの前方百メートルぐらいを先行して走破している。鹵獲したジープなどで運転の練習をしただけにしては、まずまずの運転技術で、朝方の漁村到着まで、皆、ぐっすりと眠れた様だ。

 漁村の船着場の手前で車が止まり、皆が起きてくる。あたりはまだ暗いが、そろそろ夜明けだ。明日には二隻の船が沖合に迎えに来てくれるはずだ。ナサフも眠そうな目で皆を迎える。無線を使って、紅湾などの船舶や商船会社と徹夜で折衝していたのだろう、マオに一枚の紙を渡し「ちょっと高くついたが、そこそこの船をもう一隻、借りることができた」ことを説明している。

 一隻は中型の客船で乗客定員は六十五名だが、詰めれば七十名は乗れるだろう、もう一隻は五十名定員なので、なんならこちらに分乗することも可能だ。船の手配も済み、紅湾への亡命手続きもすんなり済んだ。大金を紅湾の主力銀行に預けてある上に、各地に分散してある財宝の類もある。こういう時は、下手に手練手管を使わずに金で押す方が通りがよい。

 日が昇り朝になるころ、徒歩組の二十名も到着しはじめる。体力差やルートの差でばらばらに到着している。それも昼には全員の到着が確認された。さすがに夜通し山道を下ってきたわけで、到着するなりトラックの荷台や、漁村で借りた空き家で爆睡に入っているが、負傷者などは皆無であった。さすが、日頃鍛えているのね、と五十嵐も少し呆れ顔だ。

 二十棟程度の家が立ち並び、十隻程度の小舟、よくても原動機付き程度の小さい船が係留されている程度の寂れた漁村が、いきなりの百名ものお客でごった返している。漁村の者に迷惑をかけない様、少し離れた場所に仮設テントをたてて山寺からの避難者はそこで船がくるのを待つ。昼ぐらいには豊漁とは言わないまでも、それなり新鮮な魚を積んだ漁船が戻ってくる。マオたちが漁民の言い値で魚を買い上げると、ランファの野外調理が始まる。

 大きな丸底中華鍋に汁物が煮えはじめると、飯炊き釜に着火。それにまな板の上で魚を続々と捌いて切り分けていく。「これはモツ汁にするから、バケツにいれておいて、頭もいい出汁がでるよ」と食事係の門弟三名とリーメイ・ミーメイが鍋に振り分けていく。「ほら、飯の火力、そこで弱めて! そこ、ボオッとしてないで汁鍋、吹きこぼれるよ! お湯が足りない、さっさと沸かしなさい! え? 焚き火が足りない? わかっているなら焚き火を増やす!」と門弟の調理にダメだしをしている。山寺の時とまったく調子は変わらない。

 海岸に潮の香りに混じって、料理の香りがただよってくる。鍋釜の調理器具はレンファたちが確保していたが、皿やお椀などの食器は各自がものだ。なので、大きいお椀でごっそり食べる者と、体のわりに小さいお椀で何杯もお替わりをする者、そして、調理器具の数の少なさ故、すぐにからっぽになる鍋。

 特に、徒歩組の食欲はすさまじく、ランファが作るはしからたいらげていく。「あんたら、すこしは遠慮しな。まったくぜんぜん足りないよ」とランファがしゃもじを振り回している。漁村のおかみさんたちも出てきて、調理手伝いをしてくれている。相場の倍以上で買い上げた礼もあるのだろう。小一時間ほど、戦場なみの喧騒が続いた。

 今夕、一隻目の船が到着する。夜闇に紛れて乗船、早朝には出発だ。二隻目も朝方には到着するという報せがはいっている。乗船のために、漁村の漁船総出での見送りになる。