サイドストーリー「充実した空白 〜烈女の長期休暇〜」

架空戦記
同人誌のキャラクター「五十嵐千鶴」を主役にしたサイドストーリー「充実した空白」です。

第一話:陸上戦


第一話:陸上戦

「さぁて、どうやって楽しませてくれるのかしらね」

 さんざん敵に打撃を与え、すでに十名程を屠ったが、それでも半分以上残っている。軟着陸したヘリから百メートル程離れた岩陰に隠れ、敵兵の動きを横目で見ながら、五十嵐千鶴は装備と残弾を確認する。敵兵はヘリの完全沈黙を確認するかの様に、恐る恐るヘリの中の様子を伺っている。

「お楽しみはもうちょっと後ね」乏しい残弾だけど、着実にやっていけば相手から逃げられるだろう。投降したところで、これだけ殺している以上、ただではすまない。あの蛮族のことだ、生きていたら嬲り殺しに、死んでいても屍体は切り刻まれるだろう……。

「敗れた後の事を考えるなんて埒もないこと」残り少ない銃弾をライフルと機関銃に装填し、岩陰から敵兵の動きを覗く。まだ煙をあげているヘリのコクピットに乗り込んでいる敵兵もいる。窓をあけ、ドアを盾にするつもりなのだろう。ライフルの銃口を開けた窓から、こちらに向けている。

「百メートル?百五メートルか、ちょっと遠いわね」ライフルの照準をコクピットの開けられた窓を狙う。敵兵の頭を射抜くためではなく、狙いは天井に設置されている暗号通信用の解読・暗号化装置だ。最初の一発が大事ね、外したら相手は忽ち窓を閉めてしまう。すっとライフルの照星をヘリに向けると、ヘリ下部の増槽の下で敵兵が匍匐している。腰に無造作に吊り下げている手榴弾の束が目に入る。「あら、こっちの方が効率よさそうね」 照星をさげて引き金に指をかける。

 軽く引き金を引き絞る。敵兵の腰の手榴弾のやや下に着弾し、跳弾が命中する。一瞬の間を置いて、ヘリの下が炎に包まれ機体が浮き上がる。さらに、両側の増槽が爆発、機体全体が炎に包まれる。ヘリに乗っていた敵兵とヘリの横に展開していた二人が火だるまになり踊っている。

「短い間だったが、よい機体だった、成仏してくれ」目を瞑り黙祷をする五十嵐。火だるまになっている連中の救護をはじめる敵部隊。その混乱に乗じて、銃撃がかすめた右足を軽く引きずる様にして、さらに後方に逃げる。直撃ではないが弾丸が掠めた右足を、木片で応急処置して、さらに敵との距離を稼ぐ。充分とはいえないが、敵からの距離を広げつつ、遠くに見える山々を目指す。

 敵部隊から五百メートルは距離を確保し、さらに近場の林に逃げ込もうとすると、バリバリバリと、うるさいエンジン音が五十嵐の耳に届く。振り返ると、機関銃を側車に載せたバイクが二台。「まずいな、あんなものと競争しても、勝てるわけもない」傍にある高さ二メートルぐらいの岩に身を寄せて五十嵐が側車を見やると、すかさず撃ってくる。近場に着弾する土煙を見ながら「これは八ミリ程度ね。射程距離ではこっちと同程度かな?」と冷静に判断する。
「射程が同じ程度なら、あとは腕次第ね。揺れる側車からだとちょっとハンデがあるかな? でも、速射性能があるからほぼイーブンね。二台で連携とられると面倒かしら」バイクは左右に展開して、挟撃体制を敷こうとしている。慎重に右側のバイクの運転手を狙う五十嵐。「あら、ちゃんと伏せていらっしゃる、これでは当りらないわね」

 やや後方にある左側のバイク、こちらは操縦に不慣れなのだろう、やや体を起こし気味だ。「練度が高い者を先に葬れ…という鉄則に反するけど、贅沢はだめよね」と狙いをつけて引き金に指をかける。盛り上がったこぶを駆け上がる時に、背を伸ばしてしまう。ライダーの癖なのだろう、その隙だけで五十嵐には充分だった。

 タン!

 軽い銃声とともに後に倒れていく側車のライダー、コントロールを失ったバイクが側車の射撃手の重さで左に倒れていく。射撃手がハンドルに手をかけようとするも、間に合わず転倒する。もう一台の側車のライダーは倒れた味方の救援か五十嵐追走かを一瞬迷う。倒れた側車の射撃手がまだ生きていると判断すると、すぐに五十嵐追走を再開する。

「あら、倒れたお仲間よりもこっちが大事なのね」と、ちょっと不服そうな表情になるも、五十嵐は次弾を装填して狙いを定める。風防を兼ねた防弾ガラスに身を隠しながら突進してくる。「そうね、普通はそうなさるものですよね」と側車ライダーと射撃手の姿勢をほめながら、ゆっくりと銃口を下げてバイクの前輪を狙う。側車に備え付けられた機関銃からタタタタンという三点射の音とともに、五十嵐が隠れている岩が削れる。とっさに射撃姿勢を解いて頭をさげ、すぐに岩の反対側に展開する。側車がバイクの左側にあるので射撃しやすい様に、五十嵐から見て左側から突入してくるはずだ。

 バリバリバリとバイクのエンジン音がだんだんと大きくなってくる。痛みが残る右足をひきずりながら、ゆっくりと体を岩の右手にずらせてバイクが回りこんでくるのを待つ。エンジン音が大きくなりつつ岩を左手に大きく回頭してドリフト状態で機銃掃射。くるりと岩沿い逆側に回りこみバイクの向きと正対しない様にトリショットで応える五十嵐。

 バイクは後輪を空回りさせ、すぐさま岩の方に側車の銃口を向けてくる。五十嵐は岩の上に駆け上がり、バイクの上空から射撃、一発は操縦者にあたったのだが、沈黙させるには至らない。上方を射撃できない据付の機銃を捨て、ライフルに持ち替えて狙いをつける側車上の射撃手。岩山からバイクめがけて飛び降ながら射撃手を撃つ。ほぼ真上にライフルを向けたところで、右肩を吹き飛ばされた射撃手が側車からこぼれ落ちる。バイクの操縦者が着地した五十嵐に拳銃で対抗しようとするが、肩に受けた銃弾で狙いが定まらず、五十嵐も体を横転させながら敵の銃撃を回避し、岩陰に戻る。

 バイクから降りてバイクを盾にして操縦者の射撃が続く。岩を挟んで、膠着状態に陥る。「このまま、にらめっこしていてもだめね。あちらの増援がきちゃうわ」五十嵐は小石を岩山の向こう側に投げると、相手はすかさずその小石めがけて撃つ。バイクの操縦者が小石だと気づいて、逆方向に向き直るタイミングで小石に続いて飛び出す五十嵐。囮の石だと気づいて操縦者が逆方向に目を戻す隙に、機銃掃射で操縦者の肩から上を吹き飛ばす。

「まだバイクは使い物になりそうね」視界の端の方で蠢いている元射撃手にとどめのトリショットをお見舞いしながら、バイクにまたがる五十嵐。

「どっちにいこうかしら。陸路、北夜を縦断して戻ると、五百キロか…… それも、にぎやかな…… というか沸騰している前線を突破しないとね。逆に半島の根本の港が近そうね。難民船や密航船に紛れて海から戻った方が安全そう」半島の根本、西側には漁村もあると聞いている。急峻で極端に高い山は少ないが、凸凹な森林と谷が続いている様な地形だ。バイクにしても徒歩にしても、隠れやすく好都合だ。